最新記事

インド

中国との係争地での軍事衝突、引き下がれないインド政府の事情

2020年6月28日(日)14時20分

中国とインドによる国境係争地での軍事衝突について、インド政府内では何十年ぶりかに起きた最悪の外交危機として捉えられている。一方、中国政府は控えめな姿勢に徹している。写真は17日、ラダック地方の国境地帯に向かうインド軍のトラック(2020年 ロイター/Danish Ismail)

中国とインドによる国境係争地での軍事衝突について、インド政府内では何十年ぶりかに起きた最悪の外交危機として捉えられている。一方、中国政府は控えめな姿勢に徹している。

中国は既に数多くの外交的な紛争に直面している。問題の相手は米国からオーストラリア、台湾、香港、さらには新型コロナウイルス流行発生を巡る対処もある。

さらに新たなもめ事には巻き込まれたくないと考えているし、今回の軍事衝突がインド政府を米政府寄りにする可能性があるなら、なおさらだとアナリストらは話す。

中国外務省は23日、両国は緊張緩和に取り組んでいると表明した。そもそも中国メディアはこの問題をほとんど報じていない。

中国政府の反応が示すのは、台湾問題、南シナ海での領土主張、新疆ウイグル自治区と香港への締め付けといった他の優先課題に比べ、政治的な重要性が低いインドとの国境問題の危機では、緊張を緩和させるほうが得策との考え方だ。

こうした中印両国の対照的な反応は、それぞれの政治体制の違いを映している。インドは世界最大の民主主義国家であるのに対し、中国は共産党の一党独裁で、メディアを厳しく統制している。

同時に今回の軍事衝突は双方の指導者にとって、実は政治的メリットは少ないという内情がある。

インド北部の中国との係争地で起きた衝突でインド兵20人が死亡して以来、ヒンズー教至上主義のナショナリスト、モディ首相は、強硬対応を求める声が日増しにエスカレートしているという事態に直面している。

他方、中国の習近平国家主席は、こうした世論の圧力を一切受けていない。

復旦大学(上海)南アジア研究センターのセンター長、ツァン・ジャドン氏は「インドは中国の一挙手一投足に注目しているが、中国側の大半は、米国か台湾関連の国際問題にばかり目を向けている」と述べた。

ジャドン氏は、両政府とも今回の衝突問題を大きくさせないことを目指していると指摘する。しかし、軍事衝突の現場からインドのメディアがもたらすニュースによって、モディ氏は中国では考えられないほど政策対応の自由度を縛られているという。

ジャドン氏は「軍事衝突が起きたのは、両軍が国境線について違う理解をしていたというだけのことだ」と総括する。一帯は「経済的にも地政学的にも無価値な不毛の丘陵地」であり、「中国政府の観点からは、両国間の関係を不安定化させるほどの価値はない」。

中国の短文投稿サイト「微博(ウェイボ)」の23日の検索数ランキングでは、今回の両国軍の衝突は上位50件にも入っていない。


【話題の記事】
・東京都、新型コロナウイルス新規感染57人を確認 緊急事態宣言解除後で最多
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・今年は海やプールで泳いでもいいのか?──検証
・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、自動車関税軽減の大統領令に署名

ワールド

ロシアの無条件停戦が和平の第一歩=ウクライナ大統領

ビジネス

スタバ、四半期世界売上高が予想以上に減少 米経済巡

ビジネス

原油先物2%下落、2週間ぶり安値 OPECプラス増
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 6
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中