核弾頭計470発、反目し合う中国とインドを待つ最悪のシナリオ
Can India and China Still Back Down?
国際社会が新型コロナウイルス危機に気を取られるなか、中国は最近、南シナ海での軍事活動を活発化し、香港で統制強化を進めるなど、主権に関して強硬姿勢を強めている。こうした動きを、インド政府が憂慮している可能性は高い。
莫大なインフラ投資を展開する中国の「一帯一路」構想に、インドは既に警戒の目を向けている。インドの最大の敵国、パキスタンにも巨額の投資を行っているからだ。
インドとパキスタンが争うカシミール地方の領有権問題について、中国はパキスタンの主張を支持し、インドの隣国で長年の同盟国のネパールでも影響力を強めているようだ。今こそ、近隣国に広がる中国の軍事的影響力を押し返す最後のチャンスだと、インド側はみているのだろう。
両国でナショナリズムが極度に高まる現状は、どう見ても状況の安定化に貢献しない。「インドの世論は反中に急転している。SNSなどでは、インド経済に大打撃を与え、国内都市の病院を麻痺状態にした新型コロナウイルスは中国のせいだとの意見が飛び交う」。ウォール・ストリート・ジャーナルの南アジア担当コラムニスト、サダナンド・デュメはそう指摘している。
一方、環球時報などの中国政府系メディアは新型コロナウイルスへの対応をめぐるインドの失敗を楽しげに報じ、失策から国民の目をそらすために中国との国境問題をあおっていると、インドのナレンドラ・モディ首相を非難する。今回のパンデミックで国際社会での評判が傷ついた中国は、国力を誇示しようとしているのではないか。
加えて、ドナルド・トランプ米大統領という要因がある。トランプは意外かついささか奇妙なことに5月下旬、「激化中の国境紛争を仲裁」する用意があるとツイートしたが、中国とインドのどちらに肩入れしているかは明らかだ。
モディはトランプと良好な関係にある国家指導者の1人で、アメリカとインドの防衛関係は深まっている。その一方で、アメリカは新型コロナウイルスを世界に拡散させたと中国を非難。米中貿易戦争の終結は遠のき、トランプ政権は反中的言説を強め、同盟国の協力を得て中国の影響力に対抗しようとしている。
だからといって、中国との軍事衝突が起きた場合にトランプ政権がインドを支援する気でいるとは限らない。しかし、モディはトランプが味方だと信じて、今回の衝突に突き進んだのではないか。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席にしてみれば、アメリカとインドが手を組んで攻撃を仕掛けてきたと感じているかもしれない。
こうした状況では、通常なら避けると思われる道を、両国が選んでしまう可能性がある。アメリカに仲介役を期待できないのなら、なおさらだ。
©2020 The Slate Group
<2020年6月30日号掲載>
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