最新記事

中印関係

核弾頭計470発、反目し合う中国とインドを待つ最悪のシナリオ

Can India and China Still Back Down?

2020年6月26日(金)18時30分
ジョシュア・キーティング

国際社会が新型コロナウイルス危機に気を取られるなか、中国は最近、南シナ海での軍事活動を活発化し、香港で統制強化を進めるなど、主権に関して強硬姿勢を強めている。こうした動きを、インド政府が憂慮している可能性は高い。

莫大なインフラ投資を展開する中国の「一帯一路」構想に、インドは既に警戒の目を向けている。インドの最大の敵国、パキスタンにも巨額の投資を行っているからだ。

インドとパキスタンが争うカシミール地方の領有権問題について、中国はパキスタンの主張を支持し、インドの隣国で長年の同盟国のネパールでも影響力を強めているようだ。今こそ、近隣国に広がる中国の軍事的影響力を押し返す最後のチャンスだと、インド側はみているのだろう。

両国でナショナリズムが極度に高まる現状は、どう見ても状況の安定化に貢献しない。「インドの世論は反中に急転している。SNSなどでは、インド経済に大打撃を与え、国内都市の病院を麻痺状態にした新型コロナウイルスは中国のせいだとの意見が飛び交う」。ウォール・ストリート・ジャーナルの南アジア担当コラムニスト、サダナンド・デュメはそう指摘している。

一方、環球時報などの中国政府系メディアは新型コロナウイルスへの対応をめぐるインドの失敗を楽しげに報じ、失策から国民の目をそらすために中国との国境問題をあおっていると、インドのナレンドラ・モディ首相を非難する。今回のパンデミックで国際社会での評判が傷ついた中国は、国力を誇示しようとしているのではないか。

加えて、ドナルド・トランプ米大統領という要因がある。トランプは意外かついささか奇妙なことに5月下旬、「激化中の国境紛争を仲裁」する用意があるとツイートしたが、中国とインドのどちらに肩入れしているかは明らかだ。

モディはトランプと良好な関係にある国家指導者の1人で、アメリカとインドの防衛関係は深まっている。その一方で、アメリカは新型コロナウイルスを世界に拡散させたと中国を非難。米中貿易戦争の終結は遠のき、トランプ政権は反中的言説を強め、同盟国の協力を得て中国の影響力に対抗しようとしている。

だからといって、中国との軍事衝突が起きた場合にトランプ政権がインドを支援する気でいるとは限らない。しかし、モディはトランプが味方だと信じて、今回の衝突に突き進んだのではないか。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席にしてみれば、アメリカとインドが手を組んで攻撃を仕掛けてきたと感じているかもしれない。

こうした状況では、通常なら避けると思われる道を、両国が選んでしまう可能性がある。アメリカに仲介役を期待できないのなら、なおさらだ。

©2020 The Slate Group

<2020年6月30日号掲載>

【話題の記事】
米シアトルで抗議デモ隊が「自治区」設立を宣言──軍の治安出動はあるか
巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
自殺かリンチか、差別に怒るアメリカで木に吊るされた黒人の遺体発見が相次ぐ
街に繰り出したカワウソの受難 高級魚アロワナを食べたら...

20200630issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月30日号(6月23日発売)は「中国マスク外交」特集。アメリカの隙を突いて世界で影響力を拡大。コロナ危機で焼け太りする中国の勝算と誤算は? 世界秩序の転換点になるのか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中