「中国はアメリカに勝てない」ジョセフ・ナイ教授が警告
TOO EARLY TO CALL A WINNER
SHUTTERSTOCK, ISTOCK
<ソフトパワー、地政学、ハードパワー、人口動態......。新型コロナ禍が世界を変えるように見えても、中国がアメリカに代わる超大国にはなれない理由。本誌「中国マスク外交」特集より>
新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)は、世界の地政学をどう変えるのか。
この問いに対して、グローバル化の時代の終焉を予測する識者は多い。第2次大戦後、アメリカのリーダーシップ下で花開いた相互依存の時代が終わるというのだ。また、中国がアメリカを追い抜き、世界の超大国の座に就くという予測もある。
確かに、これまでどおりとはいかないだろう。だが大きな事件が大きな結果をもたらすとは限らない。1918年から流行したスペイン風邪は、直前の第1次大戦よりも多くの命を奪ったが、その後20年間の世界の流れを決めたのは、スペイン風邪ではなく第1次大戦の結果だった。
グローバル化は、物流と情報技術における進歩の産物であり、こうした進歩が新型コロナ禍によってストップするとは思えない。経済のグローバル化に関しては、貿易など縮小する領域もあれば、金融などさほど縮小しない領域もあるだろう。
それに、経済のグローバル化は政治のルールに左右されるのに対して、パンデミックや気候変動のグローバル化を支配するのは、生物学や物理学の法則だ。壁や武器や関税をもってしても、こうした事象が国境を超えて広がるのを阻止することはできない。
21世紀は、既に3つの危機に見舞われてきた。2001年の米同時多発テロは、死者の数はさほど多くなかったが、衝撃的な恐怖を生み出すことで、巨大なインパクトをもたらした。パニック状態で下された決断によってアメリカの外交政策は大きくゆがめられ、アフガニスタンとイラクでの長い戦争へと向かった。
第2の危機は、08年の世界金融危機だ。これは世界に大不況をもたらし、欧米民主主義国でポピュリズムを台頭させ、多くの国で独裁的なリーダーを誕生させた。このとき中国が迅速に打ち出した大規模な景気刺激策は、後手後手に回った欧米諸国の対策とは対照的で、中国がアメリカに代わり世界経済のリーダーになるという見方が強まった。
効果がなかったプロパガンダ
21世紀の第3の危機、つまり新型コロナのパンデミックに対する初期対応も、間違った方向に進んだ。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席もドナルド・トランプ米大統領も、当初は事実を否定し、虚報を流した。それは対応の遅れと事実のごまかしにつながり、感染封じ込めで決定的に重要な時期を無駄にし、国際協力のチャンスを奪った。
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