最新記事

中国マスク外交

傲慢な中国は世界の嫌われ者

CHINA IS ITS OWN WORST ENEMY

2020年6月23日(火)16時45分
ブラマ・チェラニ(インド・政策研究センター戦略問題専門家)

コロナ禍で中国企業がカンボジアで進める工事も中断 PAULA BRONSTEIN/GETTY IMAGES

<初動ミスへの批判に耳を貸さず、強硬姿勢で国際社会の信頼を失い孤立の道へ。本誌「中国マスク外交」特集より>

このところ世界中で中国批判の大合唱が起きている。新型コロナウイルス発生初期における情報隠しがパンデミック(世界的大流行)を招いたとして中国の責任が問われているのだ。だが中国は批判に耳を貸さず、香港への締め付けを強めるなど強硬姿勢一点張りで、火に油を注いでいる。
20200630issue_cover200.jpg
他国にマスクや防護服を提供し、暗黙のうちに政治的な見返りを求める、ウイルスの発生源に関する調査をかたくなに拒んだ揚げ句、国際世論の圧力に負けて渋々受け入れる──習近平(シー・チンピン)国家主席率いる中国政府のこうした迷走ぶりは信頼を失墜させ、自国を孤立に追い込むばかりだ。

習に良識があれば、中国はパンデミックで低下したイメージを立て直せたはずだ。破綻寸前に陥った「一帯一路」の参加国に債務の返済を免除するなり、貧困国に見返りを求めずに医療援助を行うなり、大国にふさわしい寛大さを示せばよかった。だが習政権にそんな度量はなかった。

けんか腰の外交姿勢にせよ、周辺地域での拡張主義的な活動にせよ、中国のやり方に世界は警戒を募らせている。にもかかわらず習は今の危機を覇権拡大の好機と見なしている。

実際、中国はパンデミックを最大限利用しようとした。1月時点で防護服などを買い占め、その後に価格をつり上げて暴利を得た。欠陥品のマスクや検査キットを売り付けたことも国際社会の怒りを買った。

習のワンマン支配の危うさ

世界がコロナ禍と闘っている隙に、中国軍は国境地帯でインド軍に小競り合いを仕掛け、尖閣諸島周辺の海域で日本の漁船を追尾するなど挑発行為を繰り返している。南シナ海の島々を管轄する行政区を新たに2つ設定し、この海域の支配を既成事実化する動きも関係国の神経を逆なでした。

オーストラリアが新型コロナウイルスの発生源に関する調査を呼び掛けると、中国はこれに猛反発。オーストラリア産の大麦に高関税をかけるなど報復措置に出て、両国の関係は急速に悪化した。

中国のかたくなな調査拒否は、2011年の東日本大震災で起きた福島第1原子力発電所の事故に関するIAEA(国際原子力機関)の調査を躊躇なく受け入れた日本とは対照的だ。それでもWHO(世界保健機関)の総会で調査を求める決議案が採択される形勢になると、習はメンツを失うまいとして土壇場で調査受け入れに転じた。

コロナ後の世界は元の姿には戻らない。国際政治の在り方も変わるし、経済も変わる。危機をきっかけに世界は中国頼みのサプライチェーンの危うさに気付き、既に生産拠点の分散化に着手している。

【参考記事】限界超えた米中「新冷戦」、コロナ後の和解は考えられない

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中