最新記事

朝鮮半島

韓国の弱腰対応が北朝鮮をつけ上がらせている

North Korea’s Explosive bullying

2020年6月22日(月)17時50分
ダグ・バンドー(ケイトー研究所上級研究員)

北朝鮮はホットライン切断に続き、南北共同連絡事務所のビルを爆破(6月16日) KCNA-REUTERS

<体制批判のビラを飛ばしていた脱北者団体を刑事告発するなど、北朝鮮の言いなりになる韓国政府。北は侮辱と脅しの外交に回帰した。南北関係悪化を恐れ、市民の自由を犠牲にする文政権の過ちとは>

独裁者は批判されると怒りを爆発させるもの。北朝鮮の最高指導者も例外ではない。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長について絶賛以外の言葉を発しようものなら、監獄送りになりかねない。

先日も韓国とのいさかいを機に、北朝鮮の怒りが文字どおり「爆発」した。6月16日、韓国との軍事境界線近くの開城(ケソン)に設置された南北共同連絡事務所を爆破したのだ。

北朝鮮は、対話が無意味であるとし、欲しいものは力ずくでも手に入れるスタイルに回帰するというメッセージを明確に発信している。それでも韓国は、そんな北の態度を後押しするような対応を繰り返すばかりだ。

韓国政府は6月11日、北の体制を批判するビラを風船に付けて北朝鮮に向けて飛ばしていた脱北者団体を刑事告発した。北の要求に応じたこの判断は、市民の知る権利を奪い、北朝鮮をつけ上がらせるだけの弱腰の対応だ。

2000年に平壌を訪問した金大中大統領の時代を別にすれば、韓国は長年、北朝鮮に対して敵対的で非生産的な政策を取り続けてきた。しかし、文在寅(ムン・ジェイン)政権は金大中の太陽政策を踏襲するような穏健路線に転じ、南北関係は2018年に劇的に好転した。

ところが2019年のベトナム・ハノイでの米朝首脳会談決裂を境に、南北関係にも再び亀裂が発生。最近の北朝鮮は韓国を無視するか、侮辱するかを繰り返している。

一方、韓国は沈黙を守っている。かつては軍事境界線付近でプロパガンダやKポップを大音量スピーカーで流していたが、この作戦は南北の緊張緩和を目的に2018年に中断された。

ただし、脱北者団体は活動をやめなかった。彼らが得意とする風船でビラを飛ばす手法の効果は不明だが、北朝鮮の怒りから、無検閲の情報が流入するのを警戒していることがうかがえる。

金の妹で北朝鮮の宣伝活動の事実上の責任者である金与正(キム・ヨジョン)労働党中央委員会第1副部長の言動からも、警戒ぶりは明らかだ。金与正は6月4日の談話で韓国政府にビラ散布の停止を要求し、聞き入れられない場合は対抗措置を取ると激しい言葉で脅した。

パニックに陥った韓国

さらに北朝鮮は9日、両国の首脳と軍の連絡手段であるホットライン(直通電話回線)を切断。「韓国とのあらゆる連絡手段を完全に切断し、不要なものを排除する決意を示す第1段階」と説明し、16日の南北共同連絡事務所の爆破へと向かっていった。

北朝鮮は臆病な韓国政府への圧力をじわじわと強めながら、巧みにゲームを進めている。一方の韓国側はパニックに陥っているようだ。

<参考記事>金与正に与えられた兄をしのぐ強硬派の役割
<参考記事>文在寅が金与正からぶつけられた罵詈雑言の「言葉爆弾」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中