最新記事

朝鮮半島

韓国の弱腰対応が北朝鮮をつけ上がらせている

North Korea’s Explosive bullying

2020年6月22日(月)17時50分
ダグ・バンドー(ケイトー研究所上級研究員)

韓国の弱腰の対応が、ビラ問題を放置したら南北関係が一段と悪化しかねないという恐怖心の表れであることは疑いの余地がない。しかし実際には、この問題が両国関係に影響を及ぼすことを示す根拠はほとんどない。

過去1年ほどの間に、北朝鮮は韓国への敵意を一段と募らせてきた。南北共同連絡事務所への関与を減らし、短距離ミサイル発射実験を再開させ、金剛山観光地区に韓国が建設したホテルなどの撤去を求め、大小さまざまな理由で韓国を批判してきた。

アメリカと国連による北への経済制裁が続くなか、韓国には南北の経済協力を推し進めるだけの力はない、と金政権は判断したように見える。つまり、ビラ散布をめぐる対立は南北関係を悪化させた原因ではなく、韓国を攻撃するための最新の口実にすぎない。北朝鮮は韓国の裏切りや忠誠心を、関係悪化の便利な言い訳として利用しているのだ。

残念ながら、下手に出る韓国のアプローチは関係改善には結び付かないだろう。韓国側には、金与正が本音では対話の再開を希望しているとの見立てもあったが、その臆測は打ち砕かれた。韓国がどれだけ北朝鮮の指示に従っても、永遠の片思いに苦しみ続けるだけだ。

ビラ散布を禁止するという早急な韓国政府の決定は、数々のマイナスの影響をもたらすだろう。まず、文政権は自国政府の威信と市民の自由を犠牲にした。これは重大な問題だ。

また、韓国は自らの影響力をみすみす手放したことにもなる。北朝鮮は自国民に直接プロパガンダが届くことを恐れているのだから、韓国はそうした活動を禁じるのではなく、むしろ奨励すべきだ。その上で、2国間対話の再開に応じるのなら、この問題について話し合う用意がある、と伝えればいい。

兄妹の矛盾を批判すべき

さらに、北朝鮮の要求に迅速に応じたことによって、北による「弱い者いじめ」をさらにエスカレートさせるという悪影響もある。南北共同連絡事務所の爆破が、そのいい例だ。北朝鮮は必ず、近いうちに再び韓国を試すような行為を仕掛けてくるだろう。

逆に、一歩も引かない姿勢で北に対峙していれば、北朝鮮の傲慢な態度を罰することができたはずだ。最高指導者の妹がこの問題の対応に当たっているという事実は、北の国内事情を反映しているのかもしれない。おそらくは、彼女の指導者としての信用を高めるためにタフさをアピールしたいという事情があったのだろう。韓国が強気の姿勢を貫いていれば、北朝鮮の脅しが失敗に終わったこと、そして、文政権には北の政治的小道具になる気がないことを明確に示せただろう。

<参考記事>金与正に与えられた兄をしのぐ強硬派の役割
<参考記事>文在寅が金与正からぶつけられた罵詈雑言の「言葉爆弾」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英首相、27年までに防衛費2.5%に増額表明 トラ

ビジネス

ECB金利、制約的か不明 自然利子率は上昇=シュナ

ワールド

イラン、米制裁下での核協議を拒否 「圧力に屈せず」

ワールド

ロシア、ウクライナへの欧州平和維持部隊派遣に改めて
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:破壊王マスク
特集:破壊王マスク
2025年3月 4日号(2/26発売)

「政府効率化省」トップとして米政府機関に大ナタ。イーロン・マスクは救世主か、破壊神か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほうがいい」と断言する金融商品
  • 2
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 3
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 4
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 5
    日本人アーティストが大躍進...NYファッションショー…
  • 6
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 7
    見逃さないで...犬があなたを愛している「11のサイン…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    国連総会、ウクライナと欧州作成の決議案採択...米露…
  • 10
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 5
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 8
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中