最新記事

新型コロナウイルス

新型コロナと芸術支援──継続、再開の先にあるアートの可能性を信じて

2020年6月12日(金)11時45分
吉本 光宏(ニッセイ基礎研究所)

GBFundは、元々、2011年の東日本大震災の発生を受けて、同協議会が「東日本大震災芸術・文化による復興支援ファンド」として創設したものだが、16年には同年4月に発生した熊本地震に対応するため「GBFund熊本・大分」を立ち上げた。その後17年3月には、災害の多い日本の状況を踏まえ、災害に対する芸術・文化による支援を必要とするすべての地域に対応できる仕組みに発展させ、「GBFund芸術・文化による災害復興支援ファンド」として継続支援を行うようになった。これまでに、285件に対し、1億5,000万円余りの助成を行ってきた。

GBFundの新型コロナウィルスへの対応に先立ち、企業メセナ協議会はニッセイ基礎研究所と共同で協議会の正会員を対象に「新型コロナウィルス感染症による企業メセナ活動への影響に関するアンケート調査」を実施、その調査結果まとめ集計結果もあわせて公表した。

それによると、新型コロナウィルス感染症の拡大によって7割の企業・団体のメセナ活動に影響があったものの、「一時的な影響はあるが、新型コロナウィルスの感染拡大が収束したら、従来どおりメセナ活動を継続したい」あるいは「新型コロナウィルスが芸術文化に及ぼした影響を視野に入れ、より効果的なメセナ活動のあり方を検討する」への回答は70%を超えており、多くのメセナ企業が、新型コロナウィルスの感染拡大で甚大な影響を受けた芸術文化への支援に対し、積極的な姿勢を示している。

実際、稲森財団は4月末に舞台芸術団体や楽団などに対し総額3億円の支援を表明した。6月1日には決定した支援先を公表、74団体に対し当初予定を上回る3億5,000万円の支援が行われる。あるいは、日本オーケストラ連盟に対して、三井住友フィナンシャルグループは1億円、三菱UFJフィナンシャルグループは3億円の寄付を行う。アーツ・ユナイテッド・ファンドにも、新生銀行が1,000万円の寄付を行うなど、金融機関は支援に積極的である。

新型コロナウィルスが芸術文化に及ぼした損害に対する支援には、3段階の対応が必要だと思われる。つまり、(1)損失に対する緊急支援、(2)緊急事態宣言解除後、コロナ対策を講じながら事業を再スタートさせるための支援、そして(3)ポストコロナの芸術のあるべき姿や新たな表現への取組に対する支援、の3つである。それぞれ短期、中期、長期と読み替えることが可能だ。

今、一番求められているのは、(1)のセーフティネット的な支援である。とにかく、芸術活動を継続するための支援が必要だ。芸術団体の経営基盤は総じて脆弱であり、アーティストばかりか文化産業を支える職業の多くはフリーランスである。一度活動が途絶えてしまうと、再スタートするのは容易ではない。現在、芸術や文化を仕事とする人たち、将来、日本の芸術文化の担い手となる若手芸術家たちが、新型コロナウィルスの感染で活動を断念したとすれば、日本の文化的損失は極めて大きい。将来に禍根を残すことは必至だ。

現在実施されているクラウドファンディングや民間の支援も、当面は(1)の新型コロナウィルスによる損失への支援を最優先すべきであろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中