最新記事

イギリス

首相側近のロックダウン破りに猛反発、いかにもイギリス的なエリート不信

UK in an Uproar

2020年6月5日(金)14時45分
ジョシュア・キーティング

報道陣に追われるようにロンドンの自宅に入るカミングス(5月25日)  HANNAH MCKAY-REUTERS

<自分たちで決めたルールに従わない政治エリートに対して、英国民の怒りが爆発>

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は国によって違った形で表れる。ボリス・ジョンソン英首相の上級顧問ドミニク・カミングスの長距離移動に対する猛反発は、いかにもイギリスらしい現象だった。

カミングスはただの顧問ではない。イギリスのEU離脱をめぐる2016年の国民投票の際には離脱キャンペーンの責任者を務め、昨年からは首相の上級顧問としてブレグジットを実現に導いた。

そんな政権の実力者が今、3月27日にロンドンから約400キロ離れた北東部ダラムの実家まで車で移動した件で窮地に立たされている。この日は英政府がコロナウイルスの感染拡大を止めるため、不要不急の外出や移動を禁じるロックダウン(都市封鎖)を導入してから4日後だった。

カミングスはこの行動について、次のように説明した。

その日、妻にコロナウイルス感染の症状が出たので、自分もすぐにウイルスに感染するだろうと思った。実家に向かったのは親族に4歳の息子の世話をしてもらうためで、自分たちは敷地内の別のコテージに滞在していた。実際、翌日になって症状が出た。

政権不信の象徴的存在

だが、釈明が難しい事実もあった。健康状態が回復した後の4月12日、妻子と一緒に実家から約50キロ離れたバーナード城までドライブしたことだ。本人によると、車の外に出たのは15分ほどだったが、それを見とがめた通行人が警察に通報したという。

車を運転したのはロンドンに戻る長距離移動の前に、ウイルスによって影響を受けた視力を確認するためで、家族は車の外にいる間、他の人との「社会的距離」を保っていたと、カミングスは言った。一家は翌日にロンドンへ戻り、カミングスは次の日に職務復帰した。

5月23日、この長距離移動が明るみに出ると、カミングスの解任を求める声が一斉に上がり、与党・保守党の議員やジョンソン支持派のメディアも同調した。それでも本人は何も間違ったことはしていないと主張。首相も今のところ擁護に回っている。

5月26日には、スコットランド省のダグラス・ロス政務次官が抗議の辞任。ダラム警察当局は、ロックダウン違反の疑いで捜査を開始した。

カミングスの行動が猛反発を買った要因はいくつかある。第1に、カミングスは毀誉褒貶の激しい人物であり、ブレグジット騒ぎの過程で与党内を含め多くの敵をつくったこと。第2に、ジョンソン政権はウイルスの深刻な脅威をなかなか認識できず、ロックダウン発動が遅れたせいで、既に非難を浴びていたこと。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中