最新記事

危機管理

民主主義vs権威主義、コロナ対策で優位に立つのはどっち?

DEMOCRACIES ARE BETTER AT MANAGING CRISIS

2020年5月29日(金)19時20分
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)

フィンランドのマリン首相(左)とドイツのメルケル首相は「勝ち組」 MICHELE TANTUSSI-REUTERS

<NZ、ドイツ、台湾......女性が指揮する民主主義国の感染抑制策が評価されているのは、政治が成熟しているから>

新型コロナウイルス危機は、いま地政学の面で強まっているイデオロギーの衝突を示す最前線だ。「権威主義圏」を代表する中国は、封鎖措置で感染の抑制に成功したと主張している。「民主主義圏」を代表する国は幅広いが、一部には対応のまずさも目立った。では危機管理には、どちらの政治体制が適しているのだろうか。

この問いに対しては、つい権威主義体制のほうが向いているのではと答えたくなるかもしれない。アメリカなどの民主主義国では、マスク着用のような予防措置でさえ国民の反発を招きかねないが、権威主義体制なら容易に導入できる。さらに中国の新型コロナウイルス対策では、調和と権力への服従を重んじる儒教の伝統がプラスに働いたという指摘もある。

だが危機管理能力を比較する上では、この対比自体が的外れだ。中国と同じく儒教の伝統を持つ民主主義国(日本や韓国、シンガポールなど)で危機対応が功を奏しているのは確かだが、その伝統がないオーストラリアやニュージーランドも成果を上げている。感染抑制策が高く評価されている国々の共通点は、指導者が危機の深刻さを把握し、それを誠実に国民に伝え、適切なタイミングで行動を起こしたことだ。

歴史的に見て民主主義国は、政府の行動力と国民の厚い信頼を武器にして、危機に打ち勝ってきた。だがコロナ危機については、必ずしもそうではない政府首脳もいる。トランプ米大統領やブラジルのボルソナロ大統領は危機の深刻さを否定し、専門家の助言を無視し、もっぱら強い自分をアピールすることに懸命だ。

女性指導者の存在感が際立つ訳

それでも多くの民主主義国の指導者は、見識ある指導力の模範を示した。

ニュージーランドでは39歳のアーダーン首相がウイルスの脅威を率直に説明して国民に協力を求め、科学に基づく措置を導入した。新規感染者は、このところ限りなくゼロに近い。ドイツではメルケル首相の透明性の高い対応が好影響をもたらし、死亡率を抑えている。デンマークのフレデリクセン首相や台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統、フィンランドのマリン首相なども素晴らしい成果を上げている。

これらは全て女性指導者だ。指導者に女性を、それも若い女性を選ぶことは、国の政治的な成熟度を反映しているとも言える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU加盟国、トランプ次期米政権が新関税発動なら協調

ビジネス

経済対策、事業規模39兆円程度 補正予算の一般会計

ワールド

メキシコ大統領、強制送還移民受け入れの用意 トラン

ビジネス

Temuの中国PDD、第3四半期は売上高と利益が予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中