いつになったら経済は元に戻るのか──景気回復への長くて遠い道のり
GOODBYE YELLOW BRICK ROAD?
また、回復が見込めない部門もありそうだ。「店舗販売の小売業は、経済が拡大していた時期から既に下り坂だった。事態が収束した後に、全ての人が再雇用されることはないだろう」と、ニッケルスバーグは言う。
消費者需要の減退と事業活動の中断は、多くの中小企業にとって終焉の鐘を鳴らすかもしれないと、バンアークはみる。「休業が1週間延びるたびに、倒産が現実に近づく」
全米レストラン協会によると、休業中の飲食店の3%は再開しそうにない。多くの人が給料は少なくても安定しているフルタイムの仕事を求めるようになるため、請負契約やパートタイムによって成り立っている「ギグ・エコノミー」は再編成される可能性がある。
誰もが「普通」に戻りたい
私たちの生活への影響は長引きそうだ。金融不況の後のように、所得格差はさらに広がるだろう。調査機関ピュー・リサーチセンターによると、所得の最下層は2007年の1万8500ドルから2016年は1万800ドルに、中間所得層の世帯の純資産は16万3300ドルから11万100ドルに減っている。経済状況が回復して資産を築いたのは高所得者層だけだ。
経済全体は、さらに不安定になるだろう。10年も続くような好景気は、今後は起きそうにない。現代の高度に専門化された経済は、非常に効率的だが、驚くほどもろい。人工呼吸器で露呈したように、余剰生産力や在庫も多くない。また、今回の危機でレジリエンス(回復力)が注目されているが、四半期単位の数字に追われる企業にとっては、長期的な視点を持てと言われても簡単ではない。
ここまでの約10年の素晴らしい回復は、減税や通貨政策、財政刺激策など、あらゆる経済ツールを駆使してきた結果でもある。FRBは3月中旬に緊急利下げを行い、政策金利はほぼゼロ(0〜0.25%)になった。財政赤字は記録的な数字が続いている。いずれ方策も尽きるだろう。
確かに、誰もが今すぐ「普通」に戻りたいと願っている(もっとも、コロナ前の126カ月間の持続的な成長と低失業率は、本当の意味の「普通」ではなかったのだが)。しかし、それは難しそうだ。
「科学者が治療法やワクチンをどのくらい早く確立できるかも、消費者や企業の行動がどのように変わるのかも、まだ分からない」と、ブルッキングス研究所のウェッセルは言う。「急速なV字回復はありそうにない。回復までに四半期かかるのか、1年か、それとも10年か。コロナ以前の水準に戻れるのだろうか」。コロナ後はさまざまなことが変わるだろう。
ハセットも、ナバロに制止される前にそう言いたかったに違いない。
<本誌2020年5月26日号掲載>
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