最新記事

感染対策

コロナ禍のゲームチェンジャー? 遠紫外線ランプがウイルスを消毒

2020年5月20日(水)17時30分
松岡由希子

遠紫外線照明は、病院、学校、飛行機、空港、などで展開できるという...... Columbia Center for Radiological Research

<コロンビア大学の研究チームは、屋内の公共スペースで人体に害をもたらすことなく細菌やウイルスを効果的に消毒する手段として「遠紫外線C波」の研究を進めてきた......>

紫外線は、波長によって、315〜400ナノメートルの紫外線A波(UV-A)、280〜315ナノメートルの紫外線B波(UA-B)、100〜280ナノメートルの紫外線C波(UV-C)に分類される。なかでも、紫外線C波は、細菌やウイルス、カビの消毒に高い効果があり、この波長を人工的に生成する紫外線ランプは、医療や食品加工などの分野で広く用いられてきた。しかしながら、紫外線C波は皮膚がんや白内障をもたらすなど、人体への有害性が高いため、人が立ち入らない場所でしか使用できないという制約がある。

人体に害を及ぼさないが、細菌やウイルスを消毒できる

米コロンビア大学放射線研究センターの研究チームは、屋内の公共スペースで人体に害をもたらすことなく細菌やウイルスを効果的に消毒する手段として「遠紫外線C波」に着目し、研究に取り組んできた。現在、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する遠紫外線C波の効果について検証をすすめている。

既存の紫外線ランプで生成される紫外線C波の波長は約254ナノメートルである一方、遠紫外線C波は205〜230ナノメートルと短いため、ヒトの細胞に到達せず、人体に害を及ぼさないが、空気中や物体の表面にある細菌やウイルスには浸透し、消毒できると考えられている。

研究チームは、これまでの研究成果において、207ナノメートルの遠紫外線C波が薬剤耐性菌のひとつ「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)」を効果的に消毒し、マウスの皮膚に照射しても害をもたらすことはないことを示した。2018年には「222ナノメートルの遠紫外線C波がH1N1亜型インフルエンザウイルスのエアロゾルを効果的に不活化させた」との研究論文も発表している。

新型コロナウイルスの不活化の効果があると考えられる

また、研究チームは、新型コロナウイルスと同じくヒトコロナウイルスに分類され、風邪を引き起こすヒトコロナウイルス229E(HcoV-229E)とヒトコロナウイルスOC43(HcoV-OC43)を対象に222ナノメートルの遠紫外線C波の効果を検証した。

その結果、遠紫外線C波がこれら2種類のウイルスのエアロゾルを25分以内に99.9%不活化させた。ヒトコロナウイルスはいずれも放射線感受性の重要な要素であるゲノムサイズがほぼ同じであるため、新型コロナウイルスを含め、他のヒトコロナウイルスにも同様の不活化の効果があると考えられる。

研究チームは、遠紫外線C波の安全性を検証するマウス実験にも着手している。マウスに遠紫外線C波を1日8時間、週5日にわたって照射。研究チームを率いるコロンビア大学のデイビッド・ブレナー教授は、AFP通信の取材に対して「現時点で、マウスに一切の異常は確認されていない」とコメントしている。

遠紫外線C波を生成する紫外線ランプは、アメリカ食品医薬品局(FAA)や環境保護庁(EPA)の承認を得るまでにまだ数ヶ月かかるものの、比較的安価で、量産化によってさらに価格は下がるとみられる。

ブレナー教授は「これは、咳やくしゃみの後で空気中に漂うウイルスのエアロゾルを効果的に除去できる安全かつ低コストな手段だ。インフルエンザや麻疹など、既知のウイルスのみならず、将来の新型ウイルスの感染予防にも、活用できる可能性がある」と期待を寄せている。

なお日本のウシオ電機は、2015年からコロンビア大学と狭帯域スペクトル紫外線技術の独占ライセンス契約および、研究委託契約を締結。2021年に製品化を目指している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中