最新記事

発電効率

ソーラーパネルの発電効率を阻害する要因が特定される

2020年4月23日(木)17時45分
松岡由希子

40年以上にわたり様々な研究が行われてきた...... LeoPatrizi

<ソーラーパネルの発電効率は20%程度にとどまっているが、これまで太陽電池の効率性の要因について様々な研究が行われてきた.......>

再生可能エネルギーの発電手段として、太陽光発電への需要がますます高まっている。米国の市場調査会社ジオンマーケットリサーチによると、世界全体のソーラーパネルの市場規模は2016年時点の308億ドル(約3兆3880億円)から年平均成長率10.9%のペースで成長し、2022年までに573億ドル(約6兆3030億円)に達するとみられている。

ソーラーパネルの発電効率の損失は、原子力発電所15機分の発電量に相当

一般的なソーラーパネルの発電効率は20%程度にとどまっているのが現状だ。これまで40年以上にわたり、太陽電池の効率性の抑制や劣化につながる要因について様々な研究が行われ、270本以上の研究論文が発表されている。

英マンチェスター大学らの研究チームが2019年に学術雑誌「ジャーナル・オブ・フィジックス」で発表した研究論文では、太陽電池の効率性を損なう新たな欠陥を発見し、「設置後の最初の数時間、光誘起劣化(LID)が生じ、ソーラーパネルの発電効率を2%低下させている」ことを明らかにした。世界全体でみると、これによる損失は、英国の15の原子力発電所の発電量を超えるエネルギーに相当するものだ。

研究チームは、半導体における深い準位を測定する「深準位過渡分光法(DLTS)」を用い、太陽電池の材料であるシリコンに潜む欠陥の存在を示した。これによると、太陽光発電のプロセスにおいて、シリコンでできた太陽電池内の電荷が太陽光の下で変換される際、電荷担体(電荷を運ぶ自由な粒子)の流れを妨げる「わな」がこの流れを閉じ込め、発電のための電力レベルを低下させているという。

2%程度の発電効率の減少は一見、些細だが......

ソーラーパネル業界では、従来、電荷担体の寿命をもとに、シリコンの品質を定めている。一連の研究成果では、品質の高いシリコンがより寿命の長い電荷担体を有することも示した。また、「わな」を除去する手段として用いられる暗所でのシリコンの加熱は、電荷担体の寿命を伸ばし、ソーラーパネルの劣化を回復する作用があることもわかった。

研究論文の責任著者であるマンチェスター大学のアンソニー・ピーカー名誉教授は「2%程度の発電効率の減少は一見、些細なようだが、世界のエネルギー需要が急速に拡大するなか、ソーラーパネルがエネルギーの供給手段のひとつとなっていることを鑑みると、明らかな損失といえるだろう」と指摘している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ・メディア、「NYSEテキサス」上場を計画

ビジネス

独CPI、3月速報は+2.3% 伸び鈍化で追加利下

ワールド

ロシア、米との協力継続 週内の首脳電話会談の予定な

ワールド

ミャンマー地震、がれきから女性救出 死者2000人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中