コロナ危機に拡散する「独裁ウイルス」を許すな
VIRAL AUTHORITARIANISM
第2に、スケープゴートをつくる動きに抵抗すべきだ。新型コロナウイルスを「中国ウイルス」呼ばわりする政府があまりに多いせいで、中国系市民を監視・差別する環境が生み出されてしまっている。ハイチ系アメリカ人の私は1980年代のHIV危機で、米疾病対策センター(CDC)がエイズは「同性愛者、ヘロイン使用者、血友病患者、ハイチ人」によって広がっていると発表し、迫害が起きるのを目の当たりにした。
最後に、根底にある経済的・社会的格差の問題に取り組まなければならない。こうした格差はパンデミックによって悪化しがちだ。アメリカではあまりに多くの家庭が医療アクセスや有給傷病休暇、労働者保護を得られないでいる。
悲しいことだが、私たちの権利の保護を責務と考えない権力者が多過ぎる。ならば、私たちが自ら権利を守らなければならない。
民主主義は単なる統治システムではない。この世界、そして世界における自身の位置を捉えるためのレンズだ。緊急事態のさなかにレンズを破壊したら、私たちは二度と同じ姿を目にできないかもしれない。
パトリック・ガスパード
PATRICK GASPARD
アメリカの元外交官。民主党やオバマ政権で要職を歴任し、2013~16年には駐南アフリカ大使を務める。2018年に慈善団体オープン・ソサエティー財団の理事長に就任。
<本誌2020年4月28日号掲載>
【参考記事】差別を生み出す恐怖との戦い方──トランプの「中国ウイルス」発言を読み解く
【参考記事】中国一党独裁の病巣が、感染拡大を助長する
2020年4月28日号(4月21日発売)は「日本に迫る医療崩壊」特集。コロナ禍の欧州で起きた医療システムの崩壊を、感染者数の急増する日本が避ける方法は? ほか「ポスト・コロナの世界経済はこうなる」など新型コロナ関連記事も多数掲載。