最新記事

新型コロナウイルス

コロナ危機に拡散する「独裁ウイルス」を許すな

VIRAL AUTHORITARIANISM

2020年4月22日(水)17時00分
パトリック・ガスパード(オープン・ソサエティー財団理事長)

国家的危機は指導者にとって権限強化の格好の口実になる INCRIVELFOTOS/ISTOCK

<自然災害や国家的危機が常に権力強化の道具になってきた事実を教訓に、権力者から民主主義をできる限り守らなければならない>

ハイチのフランソワ・デュバリエ元大統領は1963年、こう宣言した。「全権の根源は神と国民にある......全権を手にした私は、永遠にそれを保持する」と。

その言葉に嘘はなかった。デュバリエは1971年に死去するまで大統領の座にとどまり、死後は息子ジャンクロードが後継者としてさらに15年間、独裁を続けた。

大昔の話と思うかもしれないが、私にとってはそうではない。私の家族はハイチ出身だ。私が子供の頃に一家でアメリカに移住したが、デュバリエ一族の支配からは逃れられないという感覚が付きまとった。

独裁体制の下で、ハイチ国民が学ばされた残酷な教訓を忘れたことはない。その1つが、自然災害や国家的危機は常に権力強化の道具になったという事実だ。

今こそ、教訓に耳を傾ける必要がある。新型コロナウイルスが脅威にさらすのは公衆衛生だけではない。人権もまたそうだ。

今回の脅威の出発点は中国だ。独裁的な中国政府は当初、エピデミック(局所的流行)の発生を隠蔽しようとし、そのせいでウイルスが世界各地に拡散した。インドの法執行当局はロックダウン(都市封鎖)を利用して、国内のイスラム教徒に対する差別を強化。ケニアやナイジェリアの警察や軍は社会的距離措置に素直に従わないと見なした者を見境なく殴打している。ハンガリーでは、長らく権限集中を進めてきたオルバン首相が事実上の独裁者になった。

こうした民主主義に背く行為は、静かな懸念という程度の反応しか引き起こしていない。だが、米国民も安心してはいられない。3月、米司法省は(不法滞在者に限らず)アメリカ市民を裁判なしで無期限に拘束する権限を議会に申請した。

民主主義という「レンズ」を守る

私たちは新型コロナウイルスと戦う一方で、健全な民主主義を守るためにできる限りのことをしなければならない。公衆衛生の保護と民主主義の保護は、同じ戦いの2つの戦線であることを認識すべきだ。

幸運なことに、市民社会団体や個々人は無力ではない。民主主義を守るべく30年以上にわたって前線で戦ってきた私たちは、現在の危機に通じる教訓を学んでいる。

第1に、市民的自由の擁護に使えるツールは何でも使うべきだ。パンデミック(世界的大流行)は社会的距離を不可欠にしているが、警察の非道や政府の権力乱用を正当化するわけではない。政治指導者が独裁の一線を越えようとした政府は直ちに説明責任を問われなければならない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米「ゴールデンドーム」計画、政府閉鎖などで大幅遅延

ビジネス

12月米利下げ予想撤回、堅調な雇用統計受け一部機関

ワールド

台湾、日本産食品の輸入規制を全て撤廃

ワールド

英政府借入額、4─10月はコロナ禍除き最高 財政赤
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 9
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中