マスクの弊害 視覚・聴覚障害者にとってのコロナ禍社会
マスクは手話の「口の動き・表情」を隠す
先の都内外資系企業に勤める女性は、テレワークでパソコン越しの社内会議もしているが、「聴覚障害者の方は、私たち以上にこれには苦労しているようです」と言う。女性の知り合いの聴覚障害者は、ビデオ会議の画質では相手の口の動きが読めないため、対面では必要としなかったチャットによる文字通訳に頼らざる得ない状況だという。
手話通訳者の養成講座を持つ金澤貴之・群馬大学共同教育学部教授は、「口形は、日本手話でも非常に重要です。副詞的な機能も果たしますので、口話をする(口の動きを読む)人だけでなく、全ての手話話者にとって、口の形はとても大事なのです」と言う。そのため、聴覚障害者の講師も多い研究室でも、マスクを外さざるを得ないシーンが多い。ZOOMでの講義に切り替わった今は、画質やタイミングのズレといった技術上の問題も加わる。「手話話者が生きにくい世の中になりました」と金澤教授は語る。
別の専門家は、「聴覚障害者の多くは記者会見などを字幕で見ることはなく、(テレビの重要な情報発信に)手話通訳は必要だ」と言う。確かにコロナ関連の記者会見をテレビで見ていると、首相や知事の後ろには必ずと言っていいほど手話通訳者がいる。そして、手話通訳者だけはマスクをしていない。これについて、金澤教授は「神奈川県知事の記者会見など、一部の手話通訳者に透明のフェイスガード的なものをつけるケースが出てきました。でもこれ、結構光の反射があって見辛いんですよね。もう少し改善が必要な気がします」と指摘する。その改良版の透明マスクが普及すれば手話話者や通訳者の救世主になるのだろうが、金澤教授は「私は、ごく少数しかいない手話話者のために、専用の透明マスクを開発してくれるだろうか?と懐疑的です。ユニバーサルデザイン的な感じで、手話話者だけでなく、みんなにとって有意義な透明マスクならペイするかもしれませんね」と言う。
<光の反射を抑えた透明マスク><皮膚感覚を損なわない優しい素材のマスク>。こうしたアイテムを、ぜひ日本のハイテク企業の技術力で早期に開発してほしいものだ。そして、根本的に大事なのは、皆が大変な今こそ、「社会的弱者を見捨てない」という、現代社会の大前提を強く意識することではないだろうか。