最新記事

2020米大統領選

サンダース撤退でも国民皆保険がアメリカで実現するかもしれない理由

How the World Got Berned

2020年4月13日(月)15時25分
マイケル・ハーシュ

長年ぶれることなく社会主義的な政策を掲げた老政治家は若者に圧倒的に支持されたが LUCUS JACKSON-REUTERS

<コロナ禍で弱者救済の声が高まる今、皮肉にも民主党予備選から脱落したサンダース。だが78歳の反乱分子が掲げた「社会主義的政策」はアメリカの目指す目的地になった>

ユダヤの民を約束の地に導きながら、自分はその地に入れなかったモーゼ。4月8日、米大統領選の民主党予備選からの撤退を表明したバーニー・サンダース上院議員はその社会主義者版だ。

新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、民主党ばかりか共和党とトランプ政権も、いや世界中の多くの国々がサンダースの目指した約束の地を目指そうとしている。

非妥協的で自分の正しさを疑わず、対立候補にけんか腰で口論を吹っかけていたサンダースは、皮肉なことにそうした情勢下で白旗を揚げた。

だがこの異端児は、社会主義的な政策という遺産を残した。78歳のサンダースがアメリカ史上初のユダヤ系大統領になる可能性は、ほぼなくなった。だが彼がアメリカ政治にもたらした変化はすぐにはなくならないと、政敵でさえ認めている。

変化の波が及ぶのは民主党内だけではない。共和党と共和党の大統領が2兆ドル規模の救済策という史上最大の社会主義的な政策を進んで受け入れた。しかも今や民主党ばかりか共和党まで、国民皆保険について真剣に議論し始めている。これはサンダースの公約の目玉だ。

感染拡大が収束しても、この状況は続くだろう。その証拠にドナルド・トランプ米大統領は、かねてから検討してきた大型のインフラ投資計画をコロナ危機への経済対策の一環として推進しようとしている。

サンダースが掲げていたたいまつを受け継ぐのは、民主党の指名候補となることがほぼ確実となったジョー・バイデン前副大統領だ。バイデンは声明でこう述べた。

「サンダースと彼の支持者たちはアメリカの政治的な議論を変えた。これまでほとんど顧みられず、法案の成立などとうてい望めなかった政策課題が今や中心的なテーマになっている。所得格差、国民皆保険、気候変動問題、大学の授業料無償化、学生ローンの免除。これらはバーニーと彼の支持者たちが息吹を与えた課題の、ごく一部だ」

最大の強みが裏目に

サンダース自身も支持者に向けた撤退表明の演説で同じ趣旨のことを述べた。「過去5年間の私たちの運動がイデオロギー闘争に勝ったことは誰しも認める。つい最近まで(私たちの主張は)過激で二次的なものと見なされていたが、今では主流の考えとなり、全米の多くの都市や州で実施されている。それが、私たちみんなで勝ち取った成果だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中