最新記事

感染症

SNSで嫌がらせやデマ横行 新型コロナウイルスで理性失うインド市民

2020年4月3日(金)10時08分

新型コロナウイルスに感染し死亡したサミル・クマル・ミトラさんの遺体が運ばれたコルカタの火葬場。27日撮影(2020年 ロイター/Rupak De Chowdhuri)

米フィラデルフィアの大学院生、サトヤキ・ミトラさん(27)は今月半ば、インド東部のコルカタに住む父親(57)から微熱があると告げられたが、特に心配はせず、新型コロナウイルスの検査を受けるよう伝えた。

最初の検査は陰性だったが、父親サミル・クマル・ミトラさんの容態は徐々に悪化。次の検査で陽性となった2日後の23日に死亡し、家族を悲しみに突き落とした。

同時にコルカタ市民から湧き起こった罵詈(ばり)雑言の嵐に、サトヤキさんはショックを受ける。

コルカタの街中では、ウイルスをまき散らすとしてサミルさんの火葬をやめるよう求める群衆と警察が何時間も衝突。フェイスブックに残ったサミルさんのアカウントには、彼が息子とその米国人の妻に会って死のウイルスをコルカタに持ち込んだとの批判が書き込まれた。

「彼のようなやつらのせいでコロナウイルスがやってきた。やつらを銃殺しろ」──。サミルさんと家族のプロフィール写真の下に記されたメッセージだ。

しかし、実際にはサトヤキさんは昨年7月以来、帰省はしていないという。

ソーシャルメディアでは、感染拡大が深刻なイタリアにサミルさんや家族が旅行していたという書き込みもあったが、サミルさんの同僚やサトヤキさんによると、海外旅行をしたという事実はない。

こうした事態が起きているのはコルカタだけではなさそうだ。群衆が医師や航空機の乗務員など、ウイルスを持っていると疑った人々に嫌がらせをしているとの報道は国内各地で出ている。

インドではかねて、イスラム系住民とヒンズー系住民の間で過去数年で最悪の暴動が頻発し、フェイクニュースなどがそれを助長している。この国で厳しい批判やデマが広がると、民衆は容易に妄想にとらわれて理性を失い、暴動にまで発展し得ることが浮き彫りになった。政府のコロナ危機対応も複雑さを増しそうだ。

インド全土は21日間のロックダウン(封鎖)に入っている。これまでのところ他の大国に比べ、新型コロナの感染確認者数と死亡者数は少ないが、専門家と一部高官は、今後急増しかねないと懸念している。

サトヤキさんによると、彼と妻はソーシャルメディアで攻撃の標的となり、母親と祖母は怖くて家に帰れず、病院に避難している。

「どうしてここまで憎しみに駆られるのか理解できない」。サトヤキさんは米国からロイターに語った。新型コロナの感染拡大で渡航が制限されているため、サトヤキさんはインド国鉄の職員として長年働いた父親を見送る最後の儀式のために帰国することもかなわなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トヨタ、中国上海にレクサスのEV工場 単独で出資

ビジネス

日経平均は続伸、トヨタの上方修正発表後に強もち合い

ワールド

フィリピン副大統領弾劾訴追、下院で必要な支持確保

ビジネス

野村HDの10-12月期、純利益は2倍の1014億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 2
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 5
    中国AI企業ディープシーク、米オープンAIのデータ『…
  • 6
    脳のパフォーマンスが「最高状態」になる室温とは?…
  • 7
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 8
    DeepSeekが「本当に大事件」である3つの理由...中国…
  • 9
    AIやEVが輝く一方で、バブルや不況の影が広がる.....…
  • 10
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 6
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 9
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 10
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中