中国はなぜコロナ大拡散から抜け出せたのか?
そこで3月17日、中国政府は「北京空港はいかなる国際便の着地も許さない」ことを決定した。18日から中国に入る国際便は全て、北京以外の空港で乗客を降ろすことにし、かつ乗客は必ず14日間の隔離を強要される。そうしてでも、感染者の再燃を防ぐことに必死である。
ハイレベル専門家チームも解散
鍾南山があまりに体制側に毅然と立ち向かうため、遂に「国家衛生健康委員会ハイレベル専門家チームのリーダーの職を解任された」という趣旨の情報が、大陸外中文報道に見られるようになった。しかし、湖北省、特に武漢市のコロナに対する「ハイレベル専門家チーム」はあくまでも臨時的な組織で、その役割は終わったというだけのことである。このチームも解散し、国務院の下で科学技術部が主導する「新型冠状病毒感染的肺炎疫情聯防聯控工作機制科研攻関専家組」という長い名前の専門家チームなどは残っており、鍾南山はそのリーダーを務めている。
鍾南山が、中国疾病預防控制中心(CDC)などにもっと大きな行政権を与えないとウイルス感染などの早期発見や迅速な初動は難しいという提言をしたので、それが機能しているわけだ。
海外中文情報にある「中共は鐘南山を頼って利用しているが、 鐘南山は中共にとって意のままにコントロールできる都合のいい人物ではない」という趣旨の記事からも、彼の姿勢が窺われる。
鍾南山を中傷する記事
中国大陸以外の某中文メディアでは、「鍾南山氏の名義で3つの会社が登記されており、息子はエルメスのベルトをしている」などという、鍾南山を誹謗する記事があるが、鍾南山ほどの地位にあれば、会社の一つや二つを持っているのは普通のことだ。彼が行政側の人間であるなら話は別だが、彼は権力を嫌うので自由に生きている。ただ疾病に関する事業に従事しているだけで、何ら責められるべきものはないだろう。
エルメスのベルトにしてみたところで、3000円で買える偽物であるかもしれず、その誹謗記事では「お坊ちゃまのエルメスベルトが眩しすぎる」とあるが、息子(鐘帷徳氏)自身、れっきとした医者であり大学教授(広州市第一人民医院の教授。泌尿器科の権威)。本物のエルメスベルトだとしても10万円程度だ。
筆者は客観的事実に基づくファクトしか書かないことをモットーとしているが、少しでも中国の「ある要素」を肯定する記事を書くと、すぐに誹謗中傷したがる一部の人たちに、予め鍾南山を誹謗中傷する中文記事の現実をご紹介した次第である。
以上、中国の現状をご紹介したが、中国が完全にコロナから抜け出したか否かは、全人代などの両会が開催される日を見極めてから判断した方がいいかもしれない。
(なお、本コラムは中国問題グローバル研究所の論考から転載した。)
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。