エボラ、SARS、MERS......コウモリはウイルスを増殖させるインキュベーターだった
「ウイルスの宿主としてコウモリは特別である」 chuvipro-iStock
<頑強な免疫系を持つコウモリの激しい免疫応答に順応するべく、ウイルスは、より速く増殖するよう進化することがわかった......>
重症急性呼吸器症候群(SARS)を引き起こすSARSコロナウイルス(SARS-CoV)や中東呼吸器症候群(MERS)の病原体MARSコロナウイルスのほか、エボラウイルス病、マールブルグ病などのウイルス性出血熱を引き起こすウイルスは、いずれもコウモリが自然宿主ではないかと考えられている。
2019年末以降、中国を中心に世界各地で感染が広がっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)についても、「感染者5名から検出されたウイルスのゲノム(全遺伝情報)の配列がコウモリのコロナウイルスと96%同じであった」との研究結果が発表されている。そしてこのほど、これらのウイルスがコウモリ由来であるのは偶然でないことを示す研究成果が明らかとなった。
コウモリがウイルスを増殖させる「インキュベーター」となる
米カリフォルニア大学バークレー校の研究チームは、2020年2月3日、オープンアクセス誌「イーライフ」において、コウモリの免疫系とウイルスの進化とのメカニズムを解明する研究論文を発表した。
これによると、頑強な免疫系を持つコウモリの激しい免疫応答に順応するべく、ウイルスは、より速く増殖するよう進化する。いわば、コウモリが、感染力の高いウイルスを急速に増殖させる「インキュベーター(保育器、孵卵器)」となるわけだ。このようなウイルスが、ヒトを含め、コウモリのような免疫系を持っていない哺乳類に侵入すると、「宿主」を圧倒し、強い毒性をもたらすこととなる。
「ウイルスの宿主としてコウモリは特別である」
研究論文では、このメカニズムの根拠となる実験結果を示している。研究チームは、エボラウイルスとマールブルグウイルスの疑似ウイルスを用い、エジプトルーセットオオコウモリ、クロオオコウモリ、アフリカミドリザルの細胞株への感染力を比較した。
その結果、アフリカミドリザルの細胞株はウイルスに圧倒されて死滅した一方、2種類のコウモリの細胞株では、ウイルスなどの異物の侵入を妨げるインターフェロン応答により、細胞をウイルス感染から防御した。
また、このようなインターフェロン応答により、感染は長引いたという。研究論文の筆頭著者であるカリフォルニア大学バークレー校のカラ・ブルック博士研究員は「コウモリのインターフェロン応答機能は、結果として、コウモリの体内でウイルスが生き残ることを助けているようだ。強い免疫応答を持つコウモリが自らの細胞を感染から防御する一方で、ウイルスは宿主に害を与えずに増殖率をあげる」と考察している。
カリフォルニア大学バークレー校のマイク・ブーツ教授は「ウイルスの宿主としてコウモリは特別である」とし、「多くのウイルスがコウモリから来ていることは偶然ではない」と述べている。