最新記事

感染症対策

徹底したウイルス対策実施のシンガポール 他国が真似できない内容とは

2020年2月27日(木)11時25分

豊富な資金

シンガポールの徹底した対応は、2003-04年のSARS(重症急性呼吸器症候群)での経験による面もある。同国の死者数は30人を超え、中国本土以外では最も多い部類の一つだった。

シンガポールは今月、最初に中国への渡航禁止を打ち出した国の1つでもある。中国はシンガポールにとって最大の貿易相手国であり、観光客数でも中国人が最も多いことから、渡航禁止は経済的な痛手が大きい。シンガポールの首相は既に、新型ウイルス流行で景気後退に陥る恐れがあると警告している。

しかしシンガポールには十分な資金がある。アジアで最も富裕な国で、国民1人当たりの名目GDP(国民総生産)は世界の上位10カ国に入る。18日には新型ウイルスの封じ込めと景気下支えのためとして、年度予算で45億ドル(約5040億円)の対策費を発表した。

シンガポールの対応にはミスも幾つかあった。政府が2週間前に新型ウイルスの警戒レベルを引き上げ、コメや麺やトイレットペーパーなど生活必需品の買いだめパニックを引き起こしたことでは、政府は「誤解が生じた」としている。

シンガポール流の方法は持続できるものではないかもしれない。流行がもっと深刻化すればなおさらだ。

WHOが調整役を務める「地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワーク(GOARN)」を率いるデール・フィッシャー氏は「今やっていることをいつまでも続けることはできない。緊急でない手術だからといってすべてを中止にし続けることはできないし、休日に出掛けるのを一切合切禁止することもできない」と指摘。「最終的には少し緩めざるを得ないだろう」との見方を示した。

冒頭のキムさんには海外にいる家族から定期的に、安全を確保してほしいとの電子メールが届く。しかし、当局の対応はキムさんに安心感を与えている。「家族は絶対に心配しているけれど、シンガポールの対応はとても良くて、新しい対応や政策はとても理にかなっているように見えると伝えて、家族を安心させている」という。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【関連記事】
・クルーズ船のフィリピン人80人に陽性反応 約400人は帰国後隔離へ
・遂に「日本売り」を招いた新型肺炎危機──危機を作り出したのはメディアと「専門家」
・感染者2200万人・死者1万人以上 アメリカ、爆発的「インフル猛威」のなぜ


20200303issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月3日号(2月26日発売)は「AI時代の英語学習」特集。自動翻訳(機械翻訳)はどこまで使えるのか? AI翻訳・通訳を使いこなすのに必要な英語力とは? ロッシェル・カップによる、AIも間違える「交渉英語」文例集も収録。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF

ワールド

イスラエル、ガザで40カ所空爆 少なくとも43人死

ワールド

ウクライナ、中国企業3社を制裁リストに追加 ミサイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 10
    トランプに弱腰の民主党で、怒れる若手が仕掛ける現…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中