フィリピン、米軍との地位協定破棄を通告 暴走するドゥテルテの真意は?
ドゥテルテ大統領独自の読みと計算か
1999年から継続されてきた米との地位協定が破棄された場合、フィリピン軍と米軍によるこれまでの定期的な共同軍事演習の開催が難しくなるとともに、南シナ海でのフィリピン海軍と中国海軍による権益争いに対する米軍のコミットメントが弱まるとの懸念もでている。
南シナ海で同様に中国との領有権問題を抱えるベトナムやマレーシアなどは今回のフィリピンの協定破棄についてこれまでのところ公式の立場を明らかにしていないが、今後実際に協定破棄となるまでの180日間の猶予期間にフィリピン側に再考を求めていく可能性もある。
一方の中国側にしてみれば、フィリピンと米軍の関係が一歩後退することになる協定破棄を表向きは論評を避けているが歓迎していることは間違いなく、今後南シナ海でのプレゼンスをさらに強めていく可能性も指摘されている。
ただトランプ政権は依然として南シナ海での米海軍艦艇を動員した「航行の自由作戦」を通じて中国側にプレッシャーをかける外交戦術には基本的に今後も変更はなく、南シナ海の権益争いに協定破棄が与える実質的な影響はそう大きくないともいわれている。
ドゥテルテ大統領の心中にはそうした「影響力に関する読み」と同時に、今後180日間に米側との間で何らかの打開の糸口を見つけて「協定の一部改訂」を含めた見直しに漕ぎつけることで、最終的には「協定の完全破棄」には至らせないという独自の計算もあるのではないかとの見方もある。米側もそのあたりを慎重に見極めようとしているが、現段階では明確な予測を得ていないようだ。なんといってもひと筋縄ではいかないのがドゥテルテ大統領だから。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
2020年2月18日号(2月12日発売)は「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集。「起きるべくして起きた」被害拡大を防ぐための「処方箋」は? 悲劇を繰り返す中国共産党、厳戒態勢下にある北京の現状、漢方・ワクチンという「対策」......総力レポート。