最新記事

メディア

トランプの「無罪判決」を生んだFOXニュースの大罪

Brought To You By Fox News

2020年2月10日(月)17時50分
ブライアン・オット(テキサス工科大学教授)

スーパーボウル前にも独占インタビュー番組が(ワシントンDC) MARIO TAMA/GETTY IMAGES

<視聴者の94%が白人、93%が「保守的」または「非常に保守的」──民主主義の本当の破壊者はプロパガンダメディアに成り下がった右派テレビ局>

大統領に立候補する前、ドナルド・トランプはNBCのリアリティー番組『アプレンティス』への出演で知られた不動産王だった。彼は誰かを代弁することも、何かを象徴することもなかった。しかし2016年の勝利後は、「トランプ・カントリー」がトランプ支持者の多い田舎を意味する略語になっている。

もっとも、トランプに責任があるわけではない。結局のところ彼が政治的に力を持つ以前から、この地域にはそのような価値観を持つ人々がいたのだ。では、大統領の罷免を支持するのがたった48%、という責任は誰にあるのか。

答えは簡単だ。アメリカの郊外でテレビのあるレストランやジムに入ると、たいていあるチャンネルがついている。FOXニュースだ。トランプ・カントリーとは、つまりFOXニュース・カントリーのことである。

FOXニュースの視聴者は人種、イデオロギー、教育レベルにおいて他のケーブルネットワークの視聴者と違う。CNNがニールセン・メディア・リサーチのデータを分析したところ、FOXニュースの視聴者は94%が白人。93%が「保守的」または「非常に保守的」であり、全体的に教育レベルが低い。これがトランプの支持母体である。

FOXニュースは極端な右派の政治的主張と解説で構成されている。ニュースと言えるものはほとんどない。にもかかわらず2002年以降、アメリカで最高視聴率を誇るケーブルニュースチャンネルになっている。この事実こそが、今の有害な政治環境と大統領が無罪放免になったことを説明している。

弾劾裁判の一連の報道を通じて、FOXニュースの司会者は一般市民、さらにはトランプ弁護団が繰り返す話題を垂れ流し、積極的に大統領を擁護した。2019年1月以来、トランプ弁護団の4人のメンバーは360回以上もFOXニュースに出演している。

歴史的に、アメリカのメディアは権力監視と真実の裁判官として重要な役割を果たしてきた。しかしFOXニュースがプロパガンダメディアに成り下がり、トランプが批判的な報道を「フェイクニュース」と呼んだおかげで国民の多くは真実を知らない。

結局のところ、民主主義を破壊したのはトランプではなくFOXニュースなのだ。

<2020年2月18日号掲載>

【参考記事】FOXニュースとツイッター、危険なのはどっち?
【参考記事】トランプが思わずツイートした、前代未聞のベストセラーの正体

20200218issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月18日号(2月12日発売)は「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集。「起きるべくして起きた」被害拡大を防ぐための「処方箋」は? 悲劇を繰り返す中国共産党、厳戒態勢下にある北京の現状、漢方・ワクチンという「対策」......総力レポート。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平案、ロシアは現実的なものなら検討=外

ワールド

ポーランドの新米基地、核の危険性高める=ロシア外務

ビジネス

英公的部門純借り入れ、10月は174億ポンド 予想

ワールド

印財閥アダニ、会長ら起訴で新たな危機 モディ政権に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 10
    70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中