米軍が情報流出を恐れてTikTokの使用を禁止──16年にはポケモンGOの先例も
The TikTok Threat
メキシコ国境のダナ・ベースキャンプでスマホをいじる米軍兵士 ADREES LATIF-REUTERS
<米国防総省は機密情報流出を懸念してGPSアプリの使用を禁止、しかし全てのアプリに対処するのは不可能に近い>
フィットネスアプリのストラバは2017年11月、2700万人のユーザーがよく使うランニングコースやサイクリングコースのルートマップを公表した。興味深いビッグデータを広く一般に提供するのが狙いだったが、これが思わぬ結果を招いた。
公開の数カ月後、オーストラリアの大学生がツイッターで、このマップ上のデータから米軍基地の位置を簡単に特定できると指摘した。これを受け、米国防総省は問題を調査すると発表。2018年8月、戦闘地域に駐留する米軍関係者全員に電子デバイス上でのGPSアプリの使用を禁止した。
現在も国防総省は、この方針を堅持している。昨年12月には、中国企業バイトダンス(北京字節跳動科技)が提供する人気アプリTikTok(ティックトック)の削除を軍関係者に推奨し始め、一部の軍施設では軍装備品のデバイス上で同アプリを禁止またはブロックしている。
国防総省は具体的な禁止理由を明らかにしていない。「TikTokアプリの使用には潜在的リスクがある」と警告するだけで、どんな脅威があるかも説明していない。
ポケモンGOも禁止に
しかし、最も可能性が高いのはTikTokが収集したデータに中国政府がアクセスできる点を懸念しているという説だ。親会社バイトダンスの本社は北京にある。
2019年11月には、米連邦機関の対米外国投資委員会がスパイ活動、検閲、外国の影響力行使のためにTikTokが使用される可能性への懸念を理由に、バイトダンスに対する国家安全保障上の調査を年内に開始することを決定した。
調査の詳細は明らかになっていないが、ニューヨーク・タイムズ紙の報道によれば、米当局は「アプリが中国にデータを送信している証拠を持っている」という。
TikTok側は、アメリカのユーザーから収集したデータは全てアメリカとシンガポールで保管しており、中国国内で運用しているデータセンターはないと主張した。
さらに昨年末には初の「透明性リポート」を公開。2019年上半期に世界中の法執行機関から受け取ったユーザー情報提供の要請件数を明らかにした。それによると、最も多いのはインドとアメリカの107件と79件で、中国からの要請はゼロだったという。
だが、TikTokのデータが中国国外で保管されており、中国当局がデータにアクセスを試みた事実はないと言われても、やはり懸念は残る。
チャック・シューマー、トム・コットン両上院議員はジョゼフ・マグワイア国家情報長官代行に宛てた2019年10月の書簡で、TikTokのデータが中国国外で保管されているからといって、中国政府の手が届かないとは限らないと指摘した。「それでもバイトダンスは中国の法律遵守を義務付けられている。(当局の)要求に同意できない場合、中国企業が争える法的枠組みは存在しない」