新型コロナウイルスはなぜ感染拡大したか 検査・治療が後手にまわった武漢の実態
武漢市長の言動も厳しく制限
ロイターは、コロナウイルスの感染拡大にどう対処しているのか、全国・地域・都市レベルの保健当局にコメントを求めたが、回答は得られなかった。中央政府の当局者は記者会見で、初動の治療方法にいくつか「見落とし」があったと述べた。
武漢市のツォウ・シアンワン市長は27日、中国の国営テレビに対し、「あらゆる当事者が、我々の情報開示に満足していないこと」を承知していると発言。市長は、自身の言動が省政府・国家首脳から厳しく制限されていることにも触れている。
「地方自治体では、私のもとに情報が届いても、許可を得なければ公表できない」と、ツォウ市長は言う。市長は26日の記者会見で、まだ検査を受けていない患者の数から考えて、武漢市内ではさらに1000人がコロナウィルス感染と診断される可能性があると語った。
検査キットも薬も不足
中国は先週、過去最大規模の「検疫・隔離作戦」により、湖北省の感染地域を封鎖した。また、感染者の治療のため、2カ所に新たな病院を建設中だ。習近平国家主席は、感染拡大に対処するため特別委員会を創設した。
ウィルスの遺伝子情報を迅速に解読した点で、中国は国際的に称賛されているが、検査体制強化の遅れは問題視されている。
ジョンズホプキンス大学医療安全保障センターのアメシュ・アダルジャ上級研究員は、ウイルスが特定でき次第、「(化学分析に用いる)すべての試薬サンプルをきちんと確保して、検査を行いたい場所に配布する必要がある」と話す一方、「現地では検査キットや医薬品も足りないようだ」と話す。
また、ロンドン大学衛生・熱帯医学大学院のジョン・エドマンズ教授は、感染発生の直後以降、中国は詳細なデータを十分に伝達していないと指摘する。
検査キットの不足や中国側からの当初の情報発信の不足は、2003年に大流行して約800人の死者を出した重症急性呼吸器症候群(SARS)の教訓をきちんと学んでいないのではないか、という批判を呼び呼んでいる。
「ウイルスの遺伝子を解読する、新たな病院を即座に建設するといったハードサイエンスの面では改善があったが、情報管理や住民への対応といったソフトサイエンスの面ではまだまだだ」と、ミシガン大学中国研究センター長を務めるメアリー・ギャラハー教授(政治科学)は指摘する。
管理職レベルの市職員は、党レベルの上司に問題を持ち込もうというインセンティブがほとんどない。湖北省で新規のウイルス感染例が1件も報告されなかった週は、ちょうど旧正月(春節)への準備や、全国人民代表者会議・中国人民政治協商会議に向けた湖北省内の会議の時期に当たっていた。