オーストラリアの山火事をあおる、フェイクニュースの大嘘
MURDOCH IS AN ARSONIST
史上最悪の山火事はオーストラリア全土に燃え広がっている ©2020 MAXAR TECHNOLOGIES-HANDOUT-REUTERS
<化石燃料業界や保守派の政治家らは一致協力してデマをまき散らし、惨事の本質から目をそらさせようとしている>
危機の際ソーシャルメディアは誤報の温床になり得る。ハリケーンが上陸すると毎回のように「高速道路にサメ」というフェイク画像が出回るように、人々は誤った情報をうのみにしてシェアしがちだ。だが、それとは別の、はるかに邪悪な誤報が増えている。トロール(荒らし)とボット(自動プログラム)集団が組んで、嘘や意図的な偽情報を故意に送り込むのだ。
私は研究休暇を取得し、オーストラリアのシドニーで気候変動がこの国の異常気象に及ぼす影響を調査しているが、まさかその最たる例を目撃することになろうとは。この原稿を書いている最中も、史上最悪の山火事で空に煙が立ち込め、開け放った窓から煙の臭いがかすかに漂ってくる。気候変動の調査中にその影響を身をもって何度も体験するという、21世紀の気候科学の皮肉だ。
気候変動の現実と脅威を否定し、化石燃料業界の利益を促進する個人と組織は、一致協力してこの惨事の本質を誤解させようとしている。既に死者20人以上、野生動物10億匹以上が死亡した今回の火災には、気候変動が影響しているとの意見も多い。化石燃料の燃焼などで温室効果ガスの排出量が増加。気温が上昇して干ばつが悪化し、暑さと乾燥で火が激しさを増し、より広範囲に燃え広がっているというわけだ。2008年には現地の科学的評価報告書が「従来より山火事シーズンの開始が早まると同時にやや長期化、激しさも増すだろう。2020年には顕著になるはずだ」と予測していた。
保守派のモリソン首相は石炭産業継続と気候変動否定論を支持し、2019年末にはスペインの首都マドリードで行われた国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)をぶち壊し、猛暑と山火事に苦しむ国民をよそにハワイで休暇を楽しんでいた。気候変動否定論者が選挙に勝てば死と破滅が待っている──それを国民が痛感する絶好の機会だった。
偽情報はすぐに出回った。森林火災防止のために政府が計画した伐採や野焼きを、環境保護論者が阻止していると、保守派の政治家と評論家が非難したのだ(「議論をそらす」ための「政治的レトリック」であり「陰謀論」だと専門家は一蹴したが)。
オーストラリア出身のアメリカ人メディア王、ルパート・マードックが所有するメディアは偽情報攻勢を開始。山火事の主な原因は「放火」だというデマを広めようとした。これに対し、マードック所有のニューズ・コーポレーション内部から、同社が「無責任」かつ「危険」な報道をする「誤報キャンペーン」を展開していると告発する声が上がった。