プーチンが指名した新首相ミシュスチンって誰?
新首相に登用されたミシュスチン EVGENIA NOVOZHENINA-REUTERS
<有能な連邦税務庁長官でアイスホッケー連盟の理事、それに作曲家!?......当座の「つなぎ」かそれとも将来的な後継者候補か>
ロシアの内閣が総辞職し、メドベージェフ首相の後任にミハイル・ミシュスチン(53)なる人物が選ばれたとの発表は、世界に驚きと困惑をもたらした。官僚としては有能そうだが政治的な権力基盤はほとんどない男を首相に据えたプーチン大統領の真意は何か。もしかして、これは「プーチン以後」を見据えたプーチン自身による自作自演の政治ドラマなのか。
そもそも、この人は誰?
ミシュスチンが当座の「つなぎ」にすぎないのか、プーチンの将来的な後継者として期待されているのか、それはまだ分からない。世間的には無名に近い存在だが、財界では国内屈指の有能な実務官僚として知られており、連邦税務庁の長官として、非効率で腐り切ったロシアの税制を現代化した実績は国内外で高く評価されている。
またブルームバーグの報道によれば、この男はプーチンが設立した「ナイト・ホッケー」リーグのメンバーで、2人の関係はそこで築かれたという。ロシア・アイスホッケー連盟の理事でもあり、作曲家として多くの歌手に曲を提供しているとの報道もある。
抜擢の理由は何?
自らの権威を脅かす恐れのない人物を登用したいというプーチンの思いは、1月15日の年頭教書演説にも表れていた。大統領の任期が切れる2024年以降も権力を維持する布石を打ったわけだ。
2018年の再選後に、プーチンは総額4000億ドル規模の大規模な公共事業の実施を約束している。公約の3本柱は貧困の削減、景気の拡大、人口の増加だったが、いずれについてもメドベージェフ内閣は目ぼしい成果を上げられなかった。だからプーチンとしては、ミシュスチンが評判どおりの実務能力を発揮して官僚を動かし、これらの国家プロジェクトで結果を出してくれることを期待している。
プーチンの真意は?
プーチンは2012年に大統領に返り咲いた際の過ちに学び、自分の権力は維持したまま、国民には変化をもたらそうとしている。首相にミシュスチンを選んだのは、プーチンが国民の生活水準の低下や、政府に批判的な世論の高まりを懸念している証拠だ。
プーチンが権力を掌握した頃は原油価格が高く、国民の所得も増えていた。だから支持率も高かったが、今はそんな時代ではない。国民の可処分所得は今も2013年の水準を下回っており、欧米諸国による経済制裁と原油価格の低迷で景気の先行きは暗い。当然、政府への反発は強まる。
カーネギー国際平和財団モスクワセンターの政治アナリストであるアンドレイ・コレスニコフが指摘しているように、プーチンはミシュスチンの起用でロシア全体を「連邦税務庁のような国」に変え、ロシア経済の現代化を推進したいのだろう。