最新記事

ロシア

プーチンが指名した新首相ミシュスチンって誰?

2020年1月22日(水)17時30分
リード・スタンディッシュ、エイミー・マッキノン

新首相に登用されたミシュスチン EVGENIA NOVOZHENINA-REUTERS

<有能な連邦税務庁長官でアイスホッケー連盟の理事、それに作曲家!?......当座の「つなぎ」かそれとも将来的な後継者候補か>

ロシアの内閣が総辞職し、メドベージェフ首相の後任にミハイル・ミシュスチン(53)なる人物が選ばれたとの発表は、世界に驚きと困惑をもたらした。官僚としては有能そうだが政治的な権力基盤はほとんどない男を首相に据えたプーチン大統領の真意は何か。もしかして、これは「プーチン以後」を見据えたプーチン自身による自作自演の政治ドラマなのか。

そもそも、この人は誰?

ミシュスチンが当座の「つなぎ」にすぎないのか、プーチンの将来的な後継者として期待されているのか、それはまだ分からない。世間的には無名に近い存在だが、財界では国内屈指の有能な実務官僚として知られており、連邦税務庁の長官として、非効率で腐り切ったロシアの税制を現代化した実績は国内外で高く評価されている。

またブルームバーグの報道によれば、この男はプーチンが設立した「ナイト・ホッケー」リーグのメンバーで、2人の関係はそこで築かれたという。ロシア・アイスホッケー連盟の理事でもあり、作曲家として多くの歌手に曲を提供しているとの報道もある。

抜擢の理由は何?

自らの権威を脅かす恐れのない人物を登用したいというプーチンの思いは、1月15日の年頭教書演説にも表れていた。大統領の任期が切れる2024年以降も権力を維持する布石を打ったわけだ。

2018年の再選後に、プーチンは総額4000億ドル規模の大規模な公共事業の実施を約束している。公約の3本柱は貧困の削減、景気の拡大、人口の増加だったが、いずれについてもメドベージェフ内閣は目ぼしい成果を上げられなかった。だからプーチンとしては、ミシュスチンが評判どおりの実務能力を発揮して官僚を動かし、これらの国家プロジェクトで結果を出してくれることを期待している。

プーチンの真意は?

プーチンは2012年に大統領に返り咲いた際の過ちに学び、自分の権力は維持したまま、国民には変化をもたらそうとしている。首相にミシュスチンを選んだのは、プーチンが国民の生活水準の低下や、政府に批判的な世論の高まりを懸念している証拠だ。

プーチンが権力を掌握した頃は原油価格が高く、国民の所得も増えていた。だから支持率も高かったが、今はそんな時代ではない。国民の可処分所得は今も2013年の水準を下回っており、欧米諸国による経済制裁と原油価格の低迷で景気の先行きは暗い。当然、政府への反発は強まる。

カーネギー国際平和財団モスクワセンターの政治アナリストであるアンドレイ・コレスニコフが指摘しているように、プーチンはミシュスチンの起用でロシア全体を「連邦税務庁のような国」に変え、ロシア経済の現代化を推進したいのだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザの砂地から救助隊15人の遺体回収、国連がイスラ

ワールド

トランプ氏、北朝鮮の金総書記と「コミュニケーション

ビジネス

現代自、米ディーラーに値上げの可能性を通告 トラン

ビジネス

FRB当局者、金利巡り慎重姿勢 関税措置で物価上振
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中