最新記事

中東

イラン対米ミサイル攻撃、犠牲者ゼロの理由 米兵救った謎の「事前警告」とは?

2020年1月18日(土)13時33分

事前情報なしには犠牲者防げず

では一体、事前の警告を流したのは誰なのか。

「もちろん、イランだ」とこの補佐官は言う。「イランは、攻撃が実施される前に米国・イラク双方が気づくことを強く求めていた」。ロイターでは、この補佐官の証言の裏付けをとることができなかった。

これについて、イラン外務省はコメントを拒否しており、ニューヨークのイラン国連代表部にもコメントを求めたが回答は得られなかった。イラク首相府、イラク軍報道官もコメントの要請に応じていない。米連邦政府もコメントを拒否した。

イラク軍の発表によれば、イランは、米軍も駐留するアル・アサド基地とイラン北部のクルド人都市アルビールに近い別の基地を狙って、少なくとも22発のミサイルを発射した。人命を救うための準備には事前の警告が不可欠だったことが分かっている。

ミサイル着弾、現場大きな損害

13日、イラク西部のアンバール砂漠に広がるアル・アサド基地では、米空軍・陸軍のチームが、飛行場や周囲の掩蔽壕の周囲に山積する金属やコンクリートの残骸を、ブルドーザーとピックアップトラックを使って片付けていた。

巡航ミサイル1発が、コンクリート製の重い耐爆壁を10カ所以上崩壊させ、米兵の居住棟として使われていた輸送用コンテナを全焼させた。もう1発は、通常「ブラックホーク」攻撃ヘリを収容している格納庫2棟を破壊し、近くの事務所を吹き飛ばし、備蓄された燃料は何時間も燃え続けた、と米兵らは語る。

「この駐機場に着弾したとき、自分は爆発地点から60メートル離れた場所にいた」と米空軍のトミー・コールドウェル3等軍曹は言う。「ロケット弾ではなく、ミサイルが実際に着弾したのはこれが初めてだ。損害は(ロケット弾の場合に比べ)かなり大きい」。

「十分に備えはできていた」

基地の将校によれば、ミサイルが着弾した日の深夜までには、この基地が攻撃を受けることは明らかになっていたという。ほとんどの人員は掩蔽壕に移動し、航空機も駐機場や修理拠点から待避したという。

「ミサイル攻撃があるだろう、恐らくアル・アサド基地が標的になる、という情報を受け取っていた」と米陸軍のアンティオネット・チェイス中佐は言う。「十分に備えはできていた。10日前には、同様の攻撃に対する訓練を行っていた」

だが有志連合軍の部隊は、今回の攻撃が彼らに命中しなかったのは、イランの自制心の表れだと話している。米空軍将校の1人が言うように、「連日24時間体制で航空機のメンテナンスを行っている空軍基地にミサイルを撃ち込めば、恐らく人命を奪うことになる」のである。

(翻訳:エァクレーレン)

Kamal Ayash and John Davison

[アル・アサド空軍基地(イラク) ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20200121issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年1月21日号(1月15日発売)は「米イラン危機:戦争は起きるのか」特集。ソレイマニ司令官殺害で極限まで高まった米・イランの緊張。武力衝突に拡大する可能性はあるのか? 次の展開を読む。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

自動車大手、トランプ氏にEV税控除維持と自動運転促

ビジネス

米アポロ、後継者巡り火花 トランプ人事でCEOも離

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦争を警告 米が緊張激化と非難

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中