トランプがイラン司令官殺害を決断した理由は、石油と経済
IT’S THE ECONOMICS, STUPID
イラン政府の統計を見るとGDPも減少しており、IMFによると2019年は9.5%のマイナス成長になる見込みだ。外貨不足のため外国での反米工作もままならない。近年のどの時期と比べても、今のイランはアメリカに報復攻撃を行いにくい状況にある。
外貨不足とインフレの関係は経済学のイロハだ。何にせよ国内で何かが不足すれば価格は上がる。外貨も例外ではなく、自国通貨の為替レートが上がる。自国通貨の価値が下がれば輸入品の価格が上がり、さらにインフレが進行する。
トランプ政権が18年8月と11月にイランへの経済制裁を再開すると、イランの通貨リアルの実勢レートは急落した。制裁により外貨はさらに不足。
トランプが大統領選に勝つ以前、16年1月にイランと米欧など6カ国との間で核合意が成立して制裁が緩和された時期には、公開市場で1ドルが3万4000〜3万6000リアル前後で取引されていた。それが18年9月には11万リアル超に跳ね上がった。
イランの中央銀行は公定レートを1ドル=4万2000リアルとほぼ一定に保っているが、これは生活必需品など一部輸入品に適用されるレートで、実勢レートとの差額は政府が補助している。
財政赤字も穴埋めが困難
こうした小手先の対策をしても、リアル安は止まらず、インフレの進行には歯止めがかからない。そのため現政権への不満が噴出し、昨年11月には大規模なデモが行われた。発端は政府の補助金打ち切りでガソリン価格が引き上げられたことだ。
デモは幅広い要求を突き付ける反政府運動に発展したが、多数の銀行が焼き打ちに遭ったことからも、経済的な困窮が最大の要因であることは明らかだ。イラン政府はこのデモを深刻な脅威と見なし1979年の革命以降最も苛烈な弾圧を行った。死者は約1500人に上るという。
今回の抗議デモ以前はインフレの進行で庶民が困窮しても、現政権の支配が深刻に脅かされることはなかった。だが今の状況では、イランの指導層は外国で暴力的な工作を行うか国内の安定を取るかの二者択一を迫られる。さらに物価が上がれば、国民の不満を抑えられなくなり、政権の存続が危うくなる。
テロ攻撃や代理勢力を使った武力行使でアメリカに報復すれば、外貨のさらなる逼迫は避けられない。米政府の制裁再開後もイランと細々ながら取引を続けてきた国々にも見捨てられかねないからだ。