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サイエンス

あなたの隣にいる 目に見えないエイリアン

Invisible Aliens May Be Living Among Us. How Could This Be Possible?

2020年1月16日(木)19時30分
サマンサ・ロルフ(英ハートフォードシャー大学宇宙生物学講師)

エイリアン(地球外生命体)は身近なところに潜んでいる可能性もある DonaldBowers-iStock.

<エイリアンはすでに地球にきているのに、地球の常識を超えていて人類が気づいていないだけかもしれない――元宇宙飛行士の化学者は言う>

生命を見分けるのは簡単だ。命あるものは、動き、成長し、食べ、排泄し、生殖する。生物学の専門家は、生命の存在を決定する7つの基準を、「MRS GREN(ミセス・グレン)」と総称する。運動(Movement)、呼吸(Respiration)、感度(Sensitivity)、成長(Growth)、生殖(Reproduction)、排泄(Excretion)、栄養 (Nutrition)の頭文字だ。

しかし、イギリス初の宇宙飛行士として有名な化学者ヘレン・シャーマン(現在はロンドンのインペリアル・カレッジに勤務)は最近、地球外生命は我々の隣りにいるのに、私たちがその存在に気づいていないだけかもしれない、と語った。

そんなことがありうるのだろうか。

実は、生命を定義することはそう簡単ではない。科学者や哲学者は何世紀にもわたって議論を重ねてきた。

たとえば、3Dプリンターはみずからを複製できるが、生きているとは言えない。ロバとウマの交配で生まれるラバが繁殖できないことはよく知られているが、だからといってラバは生き物ではない、とは誰も言わないだろう。

生命の定義には100以上の説がある。一つのアプローチとして、生命を「ダーウィンの進化論的な進化が可能な自己持続的な化学システム」として説明する方法があり、かなりのケースに当てはまる。

宇宙で生命探査を行う上で、生命の定義が存在しないことは大きな問題だ。「見ればそれとわかる」場合しか生命を定義できないというのは、生命の概念が地球中心の、場合によっては人間中心の思考の枠から出られていないことを意味する。

地球外生命について考えるとき、私たちは人間型の生物を思い浮かべることが多い。だが、私たちが探している知的生命体が、人間そっくりの生物である必要はないのだ。

知られざる生命体

シャーマンはエイリアンの存在を信じており、「議論の余地はない」と言う。「彼らは我々のように炭素と窒素でできているのではないかもしれない。目の前にいるのに、わからないだけかもしれない」

<参考記事>エイリアンはもう地球に来ているかもしれない──NASA論文

そのような生命体は、私たちが知る生物学とは別系統の「影の生物圏」に所属するものであろう。幽霊という意味ではなく、まったく異なる生化学構造をもつ未知の生物、という意味だ。

彼らは私たちの理解の外にあるので、私たちは研究するどころか、気づくことさえできない。そうした生命体が存在すると仮定すると、そのような影の生物圏はおそらく顕微鏡でしか見えないほど小さい世界かもしれない。

影の生物圏はなぜ見つかっていないのか。それは、顕微鏡的な世界を研究する方法が極めて限られている体。実験室で培養できる微生物はごく一部にすぎない。

それは、まだ発見されていない多くの生命体が実際に存在する可能性を意味するのかもしれない。我々は今では、培養できない微生物のDNAを解析することができるのだが、検出できるのはDNAを含む既知の生命体だけだ。

影の生物圏を見つけた場合でも、それが「エイリアン」と呼んでいいかどうかはまた別だ。「地球外起源」を意味するか、あるいは単に「なじみのない」ことを意味するか、によって変わってくる。

<参考記事>地球外生命が存在しにくい理由が明らかに――やはり、われわれは孤独だった?

炭素を基盤としない生化学を想定する際に、よく挙げられるのがシリコン(ケイ素)を基礎とする生化学だ。それは地球中心主義の観点からしても理にかなっている。地球の約90%はシリコン、鉄、マグネシウム、酸素で構成されている。つまり生命を築くための要素として豊富に存在しているのだ。

シリコン生命体はどんな姿?


シリコンは炭素によく似た元素で、炭素と同様に他の原子と結合できる4つの価電子をもつ。だが、シリコンの原子核には14個の陽子があり、炭素の原子核には6個しかないため、シリコンのほうがかなり重い。

炭素は強力な二重結合や三重結合を形成して、細胞壁の構築など、多くの機能を備えた長い分子を形成することができるが、シリコンはそこまでは無理だ。強い結合を作るにはかなり無理しなくてはならず、長い鎖状分子はより不安定になる。

さらに、二酸化ケイ素(またはシリカ)などの一般的なシリコン化合物は、地球の常温下では固体となり、水に溶けない。これを非常に水に溶けやすい二酸化炭素と比較すると、炭素はより柔軟で、より多くの種類の分子を作る可能性があることがわかる。

シリコンを基盤とする影の生物圏を否定するもう一つの根拠は、シリコンのほとんどが岩に閉じ込められていることだ。

別系統の生命体を探る

実は、地球上の生命の化学組成は太陽の化学組成とおおよその相関関係があり、生物の原子の98%が水素、酸素、炭素で構成されている。したがって、地球に生存能力のあるシリコン生命体が存在するとしたら、他の場所で進化した生物である可能性が高い。

とはいえ、地球上にシリコン生命体が存在することを肯定する説もある。自然は順応性がある。数年前、カリフォルニア工科大学の科学者は、シリコンと結合するバクテリアのタンパク質を増殖させることに成功した。これは、シリコンに命を吹き込んだことに等しい。

シリコンは炭素に比べると柔軟性に欠けるが、それでも炭素と結合させて生命体に組み込む方法を見つけることができるかもしれない。

そして、土星の月にあたるタイタンや他の星の周りを回る惑星など、宇宙の他の場所では、シリコンを基盤とする生命の可能性を除外できない。

それを見つけるために、私たちは地球生物学という枠組みの外に出て考え、炭素系生命体とは根本的に異なる生命体を認識する方法を見つけ出さなければならない。幸い、カリフォルニア工科大学と同じく、別系統の生化学を探る試みは数多く行われている。

炭素系の生命も宇宙から

多くの人が、宇宙のどこかに生命が存在すると信じているにもかかわらず、それを証明する証拠はない。だから、大きさや量、場所に関係なく、すべての生命を貴重なものと見なすことが重要だ。私たちが知る生命体を育くんでいる星は地球しかない。だから太陽系や宇宙の他の場所でどんな生命体が誕生しようと、有害な汚染から保護する必要がある。

果たしてエイリアンは私たちのそばにいるのだろうか?

私は宇宙の膨大な距離を移動する技術を備えた生命体が地球を訪れているとは思わない。しかし、生命を形成する炭素系の分子が隕石に付着して地球に到達したという証拠はある。そのため、未知の生命体が同じように地球に到達した可能性を否定することはできない。

(翻訳:栗原紀子)

The Conversation

Samantha Rolfe, Lecturer in Astrobiology and Principal Technical Officer at Bayfordbury Observatory, University of Hertfordshire

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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