暴発寸前のイラン、厄介な北朝鮮──最も危険な2つの火薬庫にトランプはお手上げ
Trump Is Clueless on Iran and North Korea
弾劾裁判と再選が懸かった米大統領選を控えるトランプに打つ手はあるのか KEVIN LAMARQUE-REUTERS
<核・ミサイル実験の再開を示唆した北朝鮮、米軍による司令官殺害への報復を始めたイラン――有能な人材が不足するトランプ政権が世界を混乱に陥れる>
世界で最も危険な火薬庫2つが爆発寸前なのに、火消しの戦略はゼロ──2020年の幕開け、ドナルド・トランプ米大統領はそんな現状に陥っている。
今やニュースは、イランと北朝鮮をめぐる話題で再び持ち切りだ。「最大限の圧力」をかければ、イランは取引に応じる(か、うまくいけばイランの体制転換が実現する)し、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との「友情」が北東アジアに平和と軍縮の新時代をもたらす。そうトランプは信じていたのに、現実は正反対だ(編集部注:米軍は1月3日、イランの革命防衛隊クッズ部隊のカセム・スレイマニ司令官を空爆で殺害)。
北朝鮮はトランプにとって最も厄介な問題で、実にいまいましい愚行の象徴だ。2018年6月、シンガポールで金と史上初の米朝首脳会談を行ってから1年半、トランプはこの残酷な独裁者を「偉大なリーダー」「約束を守る人物」と称賛し、「非核化」を実現すると疑わずにきた。
だが金は昨年12月末、首都平壌で開かれた党中央委員会総会で7時間もの演説を行い、欧米との「長く困難な闘争」の新たな路線を説明。約2年にわたって継続してきた核実験、およびICBM(大陸間弾道ミサイル)などの長距離ミサイル発射実験のモラトリアム(一時停止)を撤回する、と劇的に宣言した。
包囲された米大使館
北朝鮮は昨年、短距離弾道ミサイルを十数回発射した。国連安保理決議に違反し、アメリカの同盟国である韓国や日本の懸念を招く行為であるにもかかわらず、トランプは取り合わなかった。金が(米本土を射程に入れる)ICBMの実験を停止している限り、問題ないと見なしたからだ。
今や金がICBMの発射実験を、おそらくは核実験も再開したら、どうなるのか。トランプは反応しないと、金は考えているのだろう。弾劾裁判と米大統領選挙を控えるなか、トランプがアジアで戦争を始める見込みはないと踏んでいる可能性もある。
一方、イラクの首都バグダッドでは昨年の大みそか、イランが支援する民兵を含むデモ隊が「アメリカに死を」と叫び、米大使館を襲撃・包囲する事件が起きた。
明けて1月1日には、イラク政府がイスラム教シーア派武装組織カタイブ・ヒズボラの指導部に圧力をかけたことを受けて、デモ隊は撤退。イランの影響力の衰えを示す展開だとトランプは受け止めたらしく、「自由を求め、イランによる支配を望まないイラクの何百万人もの人々へ。あなたたちの時が来た!」とツイートした。
実に無知な見方だ。イラクの政治に対するイランの影響力は、2003年のイラク戦争直後から確固としたものになっている。その影響力は今回の米大使館包囲のきっかけとなった出来事によって、さらに強固になったのではないか。