最新記事

イラン

全面戦争か外交か 司令官殺害でイランが選ぶ選択肢は

2020年1月8日(水)11時12分

イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官が米国に殺害され、イラン指導部は報復を言明している。イラン政府の取り得る選択肢は次の通り。写真はテヘランで行われた司令官の葬儀に参列する市民(2020年 ロイター/Nazanin Tabatabaee/WANA)

イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官が米国に殺害され、イラン指導部は報復を言明している。イラン政府の取り得る選択肢は次の通り。

軍事力

イランの最高指導者ハメネイ師とトランプ米大統領はいずれも強硬発言をしているが、双方とも全面戦争への関心を示しているわけではない。とはいえ、軍事衝突の可能性は排除できない。

ハメネイ師が自制を呼び掛ければ、国内や周辺国の親イラン組織から弱腰と受け止められかねない。このため同氏は小規模な報復を選ぶかもしれない。

カーネギー国際平和財団のシニアフェロー、カリム・サジャドプール氏は、ハメネイ師は対応を慎重に検討しなければならないと指摘する。「弱腰では面目を失うリスクがあり、過剰反応は自分の首が飛ぶリスクがある」という。

米国防総省情報局は昨年12月の報告書で、イランの主要な軍事力として(1)弾道ミサイル計画(2)産油国地域であるペルシャ湾全域の船舶航行を脅かし得る海軍(3)シリアやイラク、レバノンなど周辺国の親イラン民兵組織──を挙げた。

イランによれば、ペルシャ湾岸の米軍基地をたたくことができ、仇敵イスラエルに到達できる精密誘導ミサイルや巡航ミサイル、ドローン兵器がある。

イランないし親イラン組織がペルシャ湾や紅海の石油タンカーを攻撃する可能性もある。こうした地域は石油の輸送ルートであり、スエズ運河を経由してインド洋と地中海を結ぶ交易のルートでもある。

ホルムズ海峡封鎖

軍事衝突ないし情勢緊迫化により、ホルムズ海峡を通る船舶の運航に支障を来す恐れがある。同海峡は世界で生産される石油の約2割が通過する。海峡を巡るいかなる混乱も石油価格の急騰につながりかねない。

ホルムズ海峡は一部がオマーン領海のため、法的にはイランは一方的な封鎖はできない。しかし船舶はイラン領海を通過するし、ここはイスラム革命防衛隊の海軍の管轄下にある。

イランは米国とその同盟国との対決にミサイルやドローンや機雷、高速船を使うこともできる。米軍当局者は、ホルムズ海峡が封鎖されれば「レッドライン(越えてはならない一線)」を越えたことになり、米国は封鎖解除のため行動に移ることになるとしている。

非対称戦術と親イラン組織

中東に駐留している米軍は危険にさらされる可能性がある。イランは自分たちより高性能な米国の兵器に対抗するため、いわゆる非対称的な戦術と親イラン組織に主に依存している。

イランは親イラン国家に兵器や専門技術を提供してきた。イエメンのフーシ派はサウジアラビアの空港爆破にイラン製のミサイルとドローンを使用した。

米国とサウジは昨年、ホルムズ海峡近くで石油タンカーを攻撃したのはイランだと非難するとともに、サウジの石油施設攻撃も背後にイランの存在があったと主張している。イランは否定している。

イラクの親イラン武装組織は米軍が駐留する基地を攻撃してきた。昨年6月には米軍の無人偵察機がイランの地対空ミサイルに撃墜され、あわや直接交戦の瀬戸際となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ダウ反発、大幅安から切

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、トランプ関税発表控え神経質

ワールド

英仏・ウクライナの軍トップ、数日内に会合へ=英報道

ビジネス

米利下げ時期「物価動向次第」、関税の影響懸念=リッ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中