最新記事

イラン

全面戦争か外交か 司令官殺害でイランが選ぶ選択肢は

2020年1月8日(水)11時12分

タイミング

アラブ湾岸諸国研究所(ワシントン)のシニアフェロー、アリ・アルフォネ氏は、イランが行動を急ぐとは考えにくいと指摘。「司令官が殺害された以上、反撃し報復する以外に選択肢はないが、イランは忍耐強い国だし、攻撃のタイミングと内容はわれわれにはまだ分からない」と話した。

中東以外での影響力行使

イランと親イラン国家が中東以外の地域で影響力を行使する可能性もある。

1994年にはレバノンを拠点とするシーア派過激組織ヒズボラ(神の党)のメンバーがアルゼンチン・ブエノスアイレスのユダヤ系協会本部ビルを爆破し、85人が死亡した。アルゼンチンはイランとヒズボラの攻撃だと非難したが、両者とも責任を否定した。

アルゼンチンでは92年にもブエノスアイレスのイスラエル大使館が攻撃され29人が死亡、アルゼンチンはヒズボラによる犯行と主張している。

カーネギー国際平和財団のサジャドプール氏は「よりありそうなのは、米国の権益と同盟国が地域的、世界的に親イラン組織からの攻撃対象になり続ける事態だ。イランには欧州やアフリカ、アジア、中南米でそうした攻撃を仕掛けてきた長い歴史がある。ただ、結果の成否はまちまちだった」と語った。

外交的解決

イラン指導部はこれまで、経済が米国による制裁で圧迫された局面などでは外交的解決の門戸を開いてきた。

中東の外交筋は「イランと米国は過去にアフガニスタンやイラクなどで協力してきた。共通の利益と共通の敵がある。軍事衝突は両国に高くつくが、外交は多くの問題を解決し得るし、それは一つの選択肢だ」と述べた。

米国は2018年に15年核合意から離脱した。イランは、米国がこの核合意に復帰し、全ての対イラン制裁を解除しなければ、いかなる対米交渉もあり得ないとしている。

一方ポンペオ米国務長官はソレイマニ司令官殺害後、米政府は緊張緩和に取り組んでいると述べた。

サジャドプール氏は「多くの人が第3次世界大戦を予言しているが、イランの過去40年の歴史は、同国に最重要なのは国家の存続だということが映し出されている。イラン政府は厄介な経済制裁や国内の騒乱に直面しながら米国と全面戦争する余裕はない。ソレイマニ司令官亡き今となってはなおさらだ」と話した。

[ドバイ ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20200114issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年1月14日号(1月7日発売)は「台湾のこれから」特集。1月11日の総統選で蔡英文が再選すれば、中国はさらなる強硬姿勢に? 「香港化」する台湾、習近平の次なるシナリオ、日本が備えるべき難民クライシスなど、深層をレポートする。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、鉱物資源協定まだ署名せず トランプ氏「

ビジネス

中国人民銀総裁、米の「関税の乱用」を批判 世界金融

ワールド

米医薬品関税で年間510億ドルのコスト増、業界団体

ワールド

英米財務相が会談、「両国の国益にかなう」貿易協定の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 8
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中