最新記事

LGBT

「LGBTを摘発せよ!」 英国で男性約200人レイプした男のいたインドネシア・デポック市長、当局に指示

2020年1月20日(月)12時19分
大塚智彦(PanAsiaNews)

英国でのレイプ事件の影響も

そうした「前歴」のあるデポック市の政治家が1月12日に再びLGBTに対して厳しい方針を市当局に対して示したわけだが、今回の対応の背景には、英国で男性約200人をレイプした容疑で1月7日に終身刑判決を受けたインドネシア人男性の留学生が渡英前にインドネシア大学に在学しデポック市で生活していたことも影響しているとの見方が有力だ。

デポック市のモハマド・イドリス市長は市内に在住するLGBTの市民に対する監視強化と取り締まり、摘発を進める市長命令を1月12日に市当局各部署に発出した。

同時に同市内にLGBTである個人やその支持団体や組織のメンバーを対象とした「再教育センター」を開設する計画も明らかにした。

英国マンチェスターの裁判所で約200人の男性をクラブで声をかけて自室に連れ込み、薬物を使ってレイプしていた容疑で終身刑の判決を受けたレインハード・シナガ被告(36)はスマトラ島ジャンビ州出身のキリスト教徒。デポック市のインドネシア大学理工学部建築学科を2006年に卒業して渡英していた。

こうした同被告の経歴からインドネシアそしてデポック市が「辱められた」として同被告を非難する声がSNSなどで寄せられ、市としてもなんらかの対応に迫られたとみられている。

少数者に厳しい環境のインドネシア

こうした一連の対応策の背景には多数を占めるイスラム教徒の間では「LGBTは許されない存在である」「LGBTは精神的な病気であり治療することで快復する」という宗教的背景に基づく誤解と偏見が存在している。

インドネシアではイスラム法である「シャリア法」が適用されているスマトラ島北部のアチェ特別州以外では同性愛は法律では禁止されておらず、ジョコ・ウィドド政権も「基本的人権の尊重、多様性の中の統一、寛容性発揮」などをことあるたびに前面に掲げて国民の理解と融和を求めており、同性愛禁止には基本的に反対の立場を示している。

しかし最近のインドネシアではイスラム教国ではないにも関わらず世界最大のイスラム教徒人口(世界第4位の人口約1億6000万人の88%)を擁することを反映して、イスラム教の規範や倫理が「あるべき価値観」とみなされて、宗教的、民族的そして性的少数者にとって住みにくい環境が醸成されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米側の要請あれば、加藤財務相が為替協議するだろう=

ワールド

次回関税協議で具体的前進得られるよう調整加速を指示

ワールド

イスラエル、ガザで40カ所空爆 ハマスが暫定停戦案

ワールド

ロープウエーのゴンドラ落下、4人死亡 ナポリ近郊
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 5
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 6
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 7
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中