20年前、なぜ日本は「黒船CEO」ゴーンを求めたのか
Black Ship CEOs
昨年10月、日本テレコムの経営権を握った英ボーダフォンは、欧米の通信業界でキャリアを積んだウィリアム・モローを新社長に任命した。モローがまず行ったのは、取締役会の改革だった。
旧日本テレコムでは、20人以上の取締役の大半が経営陣で占められ、取締役会が株主のために経営陣を監視する「チェック・アンド・バランス」機能が働かない構造だった。今は取締役11人のうち経営陣は3人だけで、残りは株主の代表と社外取締役だ。
ボーダフォンも、当初は日本人を社長にすることに固執した。だが競合他社からの引き抜きが業界でタブー視されていることもあって、実現しなかった。「企業間の人材の移動がないということは、他社が素晴らしいやり方をしていてもそれを知る機会がないということだ」と、モローは言う。
このままでは買収ファンドにも見放される可能性があると、コンサルティング会社A・T・カーニーの平尾彰章は言う。「経営者不足は、日本企業を買収する際の最大のボトルネックになっている。そのために撤退する買収ファンドも出てくるかもしれない」
社長を選べない危うさ
外国人社長の受け入れには、親会社の意向に振り回される危険もつきまとう。マツダは96年以降、ほぼ2年ごとにフォードから社長が派遣されている。6月に退任したマーク・フィールズ前社長は、マーケティングの専門家だった。
フィールズが就任した当時のフォードは、ジャガーやボルボを買収したジャック・ナッサー前社長の下、ブランド力を強化できる経営者が世界中に送り込まれた。だがナッサーは、業績不振の責任を問われる形で昨年秋に退任。今やナッサーの戦略は否定され、創業家の御曹司であるウィリアム・クレイ・フォードJr.新CEOの下で商品力の強化をめざしている。
マツダのルイス・ブース新社長はエンジニア出身。「技術を通じて商品力を向上させるために選ばれたなら、マツダにとってはいい人物が来たと思う」と、日興ソロモンの松島は言う。ただ、フォードの戦略が再び変わったとき、マツダにとってベストな経営者が送られてくるかどうかはわからない。
マツダの平岩重治常務は、「グローバルなマネジメントノウハウや交渉能力で武装した人材が出てくれば、日本人が社長になることもありうる」と言う。実際、マツダでは将来の経営幹部を育成するためのプログラムが整備された。