最新記事

日本経済

20年前、なぜ日本は「黒船CEO」ゴーンを求めたのか

Black Ship CEOs

2020年1月29日(水)18時50分
千葉香代子、大橋希、井口景子(東京)、李炳宗(ソウル)、クリストファー・スラビック(ロンドン)

昨年10月、日本テレコムの経営権を握った英ボーダフォンは、欧米の通信業界でキャリアを積んだウィリアム・モローを新社長に任命した。モローがまず行ったのは、取締役会の改革だった。

旧日本テレコムでは、20人以上の取締役の大半が経営陣で占められ、取締役会が株主のために経営陣を監視する「チェック・アンド・バランス」機能が働かない構造だった。今は取締役11人のうち経営陣は3人だけで、残りは株主の代表と社外取締役だ。

ボーダフォンも、当初は日本人を社長にすることに固執した。だが競合他社からの引き抜きが業界でタブー視されていることもあって、実現しなかった。「企業間の人材の移動がないということは、他社が素晴らしいやり方をしていてもそれを知る機会がないということだ」と、モローは言う。

このままでは買収ファンドにも見放される可能性があると、コンサルティング会社A・T・カーニーの平尾彰章は言う。「経営者不足は、日本企業を買収する際の最大のボトルネックになっている。そのために撤退する買収ファンドも出てくるかもしれない」

社長を選べない危うさ

外国人社長の受け入れには、親会社の意向に振り回される危険もつきまとう。マツダは96年以降、ほぼ2年ごとにフォードから社長が派遣されている。6月に退任したマーク・フィールズ前社長は、マーケティングの専門家だった。

フィールズが就任した当時のフォードは、ジャガーやボルボを買収したジャック・ナッサー前社長の下、ブランド力を強化できる経営者が世界中に送り込まれた。だがナッサーは、業績不振の責任を問われる形で昨年秋に退任。今やナッサーの戦略は否定され、創業家の御曹司であるウィリアム・クレイ・フォードJr.新CEOの下で商品力の強化をめざしている。

マツダのルイス・ブース新社長はエンジニア出身。「技術を通じて商品力を向上させるために選ばれたなら、マツダにとってはいい人物が来たと思う」と、日興ソロモンの松島は言う。ただ、フォードの戦略が再び変わったとき、マツダにとってベストな経営者が送られてくるかどうかはわからない。

マツダの平岩重治常務は、「グローバルなマネジメントノウハウや交渉能力で武装した人材が出てくれば、日本人が社長になることもありうる」と言う。実際、マツダでは将来の経営幹部を育成するためのプログラムが整備された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中