最新記事

日本経済

20年前、なぜ日本は「黒船CEO」ゴーンを求めたのか

Black Ship CEOs

2020年1月29日(水)18時50分
千葉香代子、大橋希、井口景子(東京)、李炳宗(ソウル)、クリストファー・スラビック(ロンドン)

一方で、欧米のマネジメント環境で鍛えられた外国人社長が非効率な部分を取り除き、日本企業がグローバルスタンダードに近づくのを促していることは確かだ。

日産の社員によれば、会議のやり方も様変わりした。以前は「今日は何も決まらなかったね、では続きは次の打ち合わせで」といったこともあったが、今は時間内になんらかの結論を出して会議を終えることが習慣化したという。

98年に東邦生命から営業権譲渡を受けて開業したGEエジソン生命では、親会社のGEキャピタルから派遣されたK・ローン・ボールドウィン社長が就任して以来、職位を超えてあらゆる社員を会議に参加させるようになった。

「以前は『自分だけがこの情報を知っている』という強みで周囲や役員を説得できたが、今は情報をどう分析してどんな判断を下すかが重視される」と、関谷和樹執行役員は言う。

能力主義で職場が戦場に

証券業界では昨年、丸金証券と金万証券が香港資本の日本アジア証券に買収されたことが話題になった。丸金と金万の社員にとっては、東京の地場証券である自分たちの会社が外資に買収されるなど思いもよらなかったからだ。

日本アジア証券の呉文繍(サンドラ・ウー)社長がめざすのは、欧米の大手銀行から相手にされないアジアの中小企業に的を絞った投資銀行。舞台はローカルでも「マネジメントはグローバルスタンダード」が呉の持論だ。

買収後、違法性のある勧誘行為をやめるよう指示したら、完全歩合制だった外務員の多くは会社を辞めた。残った社員には「兜町の不文律や官僚の言うことにも疑問をもて」と言い続けている。

不本意ながら経理の仕事をしていた30代の社員は、希望してディーラーの仕事に移った。「以前の体制だったらチャレンジ精神は出てこなかったかもしれない」と、この社員は言う。「失敗したらマイナス評価になるし、異動を希望すること自体が会社に逆らうことのようで言い出せなかった」

もちろん、すべての社員が外国人社長の改革を歓迎するとはかぎらない。97年の金融危機以降、外資の導入が急速に進んだ韓国では、外資による大規模なリストラや韓国企業の「植民地化」に反発する労働争議が頻発している。

能力主義が導入された企業では、同僚より高い報酬を得るために社員同士が激しく競い合うこともある。「職場は戦場のようになってしまった」と、ドイツの化学会社に買収された韓国企業の社員は嘆く。「他人を思いやるという伝統的な美徳は完全に失われた」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国のインフレ高止まり、追加利下げに慎重=クリーブ

ワールド

カザフスタン、アブラハム合意に参加へ=米当局者

ビジネス

企業のAI導入、「雇用鈍化につながる可能性」=FR

ビジネス

ミランFRB理事、0.50%利下げ改めて主張 12
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中