最新記事

日本社会

20代~30代女性を悩ませる、夫の転勤に伴うキャリアのリセット

2020年1月22日(水)16時40分
舞田敏彦(教育社会学者)

年間26万人の女性が夫の転勤で転居していると推測される bee32/iStock.

<夫の転勤で妻のキャリア形成が阻害されるという問題点が指摘される現在、転勤制度そのものを廃止する企業も出てきた>

封建時代では「領民」思想のもと、移転の自由は制約されていた。これは領土内で必要な労働力を確保するためで、人々は生まれた土地で生涯を終えていた。

しかし近代になり「移転の自由」が法律で定められると、居住地を移動する人が増えてきた。時代とともにその度合いは高まり、2015年の『国勢調査』によると、生まれた時からずっと同じ場所に住んでいる人は13.8%しかいない。移転の自由により過疎・過密のような問題も起きているが、公共の福祉に反しない限り転居を制限することはできない。

年間にどれほどの人が住居を移しているのかと言うと、2016年10月~2017年9月の転居者は616万人となっている(総務省『就業構造基本調査』2017年)。理由の上位3位は「就職」「結婚」「転勤」だが、性別・年齢層別に内訳をみると様々な人生模様が浮かび上がってくる。<図1>は、生産年齢層の転居理由の内訳図だ。

data200122-chart01.jpg

10代では大学進学等による転居、20代前半では就職に伴う転居が多くなっている。その後は結婚・子育てといった家族関連の理由が多くなり、50代以降では老親の介護という理由での転居が増えてくる。データは正直だ。

ジェンダーの差も出ており、働き盛りの男性では「転勤」、女性では「家族の仕事の都合」が多い。女性の場合、夫の転勤に付いて行く、というものだろう。昔は、妻が夫の転勤に付いて行くのは致し方ないことと諦められていたが、今はそうではない。夫婦とも正社員の共稼ぎ世帯が増えた結果、「なぜ妻が辞めないといけないのか」という声も強くなっている。夫の転勤のたびに、築いてきたキャリアや人間関係をリセットされ、社会人としてどんどん「無力化」されていく「転妻」の問題もクローズアップされるようになってきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独クリスマス市襲撃、容疑者に反イスラム言動 難民対

ワールド

シリア暫定政府、国防相に元反体制派司令官を任命 外

ワールド

アングル:肥満症治療薬、他の疾患治療の契機に 米で

ビジネス

日鉄、ホワイトハウスが「不当な影響力」と米当局に書
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 5
    「私が主役!」と、他人を見下すような態度に批判殺…
  • 6
    トランプ、ウクライナ支援継続で「戦況逆転」の可能…
  • 7
    「たったの10分間でもいい」ランニングをムリなく継続…
  • 8
    「スニーカー時代」にハイヒールを擁護するのは「オ…
  • 9
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 10
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 3
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 4
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 7
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命を…
  • 8
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 9
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 10
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中