最新記事

インド

インドのモディ、ムスリムを甘く見た国籍法改正のしっぺ返し

2019年12月26日(木)15時40分

インドでイスラム教徒以外の不法移民に国籍を与える改正国籍法への抗議活動が急拡大したことはモディ首相(写真)にとって想定外だった。写真はブラジリアで11月撮影(2019年 ロイター/Ueslei Marcelino)

インドでイスラム教徒以外の不法移民に国籍を与える改正国籍法への抗議活動が急拡大したことはモディ首相にとって想定外だった。ヒンズー至上主義を掲げる与党・インド人民党(BJP)は国民の怒りを鎮めるのに腐心しており、デモの長期化を予想する声もある。

改正国籍法はアフガニスタン、バングラデシュ、パキスタンを逃れインドに不法入国した移民に国籍を与えるが、イスラム教徒だけは除くものだ。これに対し、イスラム教徒を差別し、信仰の自由や政教分離をうたう憲法に違反するとの非難の声が上がっており、宗教を問わず、学生や政治家、市民団体がデモを繰り広げている。

デモ隊と警察の衝突で、これまで21人以上の死者が出ている。

BJPのサンジーブ・バルヤン議員はロイターに「デモは全く想定してなかった。私だけでなく、他のBJPの議員らもこれほどの怒りは予想できなかった」と語った。

モディ氏が掲げるヒンズー至上主義はヒンズー教徒が国民の8割超を占めるインドで受け入れられてきた。今春の総選挙でBJPは前回の選挙よりも議席数を伸ばし、再び単独過半数を得て圧勝した。

改正国籍法への国民の怒りは、政府が景気減速や雇用喪失という問題に対処する代わりに多数派支配主義的政策を推進している現状に対する不満を反映している。

BJPの別の議員3人と閣僚2人はロイターに対し、国民との対話を開始し、改正国籍法への不満を解消するために党支持者を総動員していると明かした。同法に対してイスラム教徒からの多少の反発には備えていたが、大半の大都市で約2週間続いている大規模なデモは想定外だったと認めた。

国内第2の実力者とされるシャー内相は24日のテレビ番組のインタビューで、イスラム教徒が懸念すべき理由はないとの見方を改めて示した。

別の閣僚は「私たちは悪影響を最小限に抑えようとしている」と指摘。BJPとその協力政党は、同法が差別を意図したものではないと訴える取り組みを開始したと述べた。

独裁的なやり方

印シンクタンクCSDSのサンジャイ・クマール所長は「人々が改正国籍法に抗議するだけでなく、モディ首相の独裁的なリーダーシップに不満を爆発させているのは明白だ」と指摘。

「経済的な危機もデモを促す要因となっている。デモが短期間で終息するとは思わない」とした。

モディ政権は8月、インドで唯一イスラム教徒が過半を占めるジャム・カシミール州の自治権はく奪を決めた。

11月には最高裁が、16世紀に建てられたイスラム教のモスク(礼拝所)が右派の暴徒によって1992年に破壊された土地に、ヒンズー教の寺院建設を認める判断を示した。モディ政権はこの決定を歓迎した。

今回の改正国籍法で少数派のイスラム教徒を排除する政府の姿勢が一段と鮮明になった。

最大野党の国民会議派はデモを後押ししている。同党の幹部、Prithviraj Chavan氏はロイターに「インド史上初めて宗教に基づいて法律が策定された」と指摘。「インドをヒンズー第一主義の国にしようという与党の戦略が裏目に出た」と述べた。

[ムンバイ 25日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



2019123120200107issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2019年12月31日/2020年1月7日号(12月24日発売)は「ISSUES 2020」特集。米大統領選トランプ再選の可能性、「見えない」日本外交の処方箋、中国・インド経済の急成長の終焉など、12の論点から無秩序化する世界を読み解く年末の大合併号です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中