最新記事

韓国社会

女性アイドルたちの相次ぐ悲劇で韓国は変われるか

Can Three Tragedies Spark Change?

2019年12月19日(木)19時00分
ジェナ・ギブソン

2015年にソウルでパフォーマンスをするハラ HAN MYUNG-GU-WIREIMAGE/GETTY IMAGES

<リベンジポルノや盗撮の被害者の自殺が相次ぎ、女性をないがしろにする社会や司法に怒りが噴出>

韓国では性暴力やセクハラ被害を告発する「#MeToo」運動を機に、2年ほど前から女性の地位をめぐる議論が活発になっている。さらに、最近相次いだ3人の女性の悲劇的な死が、韓国人女性を苦しめる3つの相関する問題を浮き彫りにする。性暴力、オンライン・ハラスメント、盗撮だ。

これらの問題では、女性の被害が男性に比べて圧倒的に多い。社会全体が真剣に向き合って、改善を進めることが必要だ。3人の悲劇を受けて、韓国では市民の保護、特に女性の保護を求める機運が高まっている。

11月24日、K-POPの人気女性アイドルグループKARAのメンバーだったク・ハラ(28)が、自宅で死亡しているのが発見された。自殺とみられている。ハラは元恋人のチェ・ジョンボムから暴行を受け、性行為の動画を公表すると脅されたとして、昨年9月に民事訴訟を起こしていた。チェは今年1月に傷害、強要、脅迫、器物損壊、性行為の隠し撮りなどの容疑で在宅起訴され、8月に懲役1年6カ月、執行猶予3年の有罪判決を受けた。ただし、隠し撮りについては無罪とされた。原告と被告双方が控訴している。

判決に対する不満がファンや女性の権利活動家の間で高まるなか、ハラの死後は特にチェや彼のような男性への厳罰を求めるハッシュタグがソーシャルメディアで広まっている。

批判は、裁判を担当したオ・ドクシク判事にも向けられた。判事はチェが性行為を撮影したことについて、「被害者は明確な同意は示さなかったが、被害者の意思に反して撮影したようには見えない」とし、隠し撮りについては無罪とした。

韓国大統領府には今秋、性犯罪の量刑の見直しを求める国民請願が提出されていた。ハラの死後、この請願が改めて注目され、署名した人は26万人を超えている(20万人を超えた請願には政府が正式な回答をする)。

こうしたプライバシー侵害の被害者は、著名人だけではない。韓国ではここ数年、公衆トイレや更衣室、宿泊施設などにスパイカメラ(小型の隠しカメラ)を設置し、人々のプライベートな瞬間を盗撮する行為が増え続けている。

スパイカメラの被害者は主に女性だ。こうした犯罪は、取り返しのつかない結果を招きかねない。

韓国南部の病院で働いていた女性が自殺したのも、盗撮被害のためだった。男性の同僚が更衣室にスパイカメラを設置して、彼女を含む数人を盗撮していたことが発覚し、動画流出の恐怖に怯えていた。

盗撮に寛大過ぎる司法

この一件は、プライバシーを侵害された被害者が、事件の直後にも、そして長期的にも苦しみ続けるという事実を改めて浮き彫りにした。しかも韓国の司法制度は、またしてもこの手の犯罪に寛大だった。性的動画の違法な撮影や共有は最大で5年の禁錮刑だが、この容疑者への判決は懲役10カ月にすぎなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中