最新記事

インド

インドが平和を捨てて宗教排他主義に走る

Deadly Protests Over India’s Citizenship Act

2019年12月18日(水)16時45分
ラビ・アグラワル、キャスリン・サラム

登録簿から除外された人々の多くは多数派のヒンズー教徒だった。新しい市民権法の下では、これらのヒンズー教徒もアフガニスタン、バングラデシュ、パキスタンいずれかの国からの移民であれば、市民権を得る道が開ける。だがイスラム教徒の場合は、外国人とみなされる恐れがある。

シャーは、国民登録簿をアッサム州から全国に拡大すると言う。その通りになってもおかしくない理由はいくらもある。結局のところ、全国的な国民登録簿の作成はBJPの選挙公約の一部だった。

ナレンドラ・モディ首相も5月の再選以来、イスラム教徒が多数を占めるジャム・カシミール州の自治権を剥奪するなど、選挙中に約束したヒンズー至上主義的な公約を次々と実行に移している。狙いは、インドをヒンズー教国に変えて、2億人近いイスラム教徒の地位を低下させること。BJPの基本綱領だ。

宗教国家化への布石

市民権改正法に対する異議申し立ては、すでにインドの最高裁判所に提出されている。だが審議が始まるまでに数カ月かかる可能性があるし、裁判所の判断がどうなるかは誰にもわからない。そんな環境で、この法律に反対する人々は、自分の生活や仕事を犠牲にして、いつまで抗議活動を続けなければならないのだろう。

シャーとモディは、抗議に直面しても、ひるむ気配はない。当局はデモを組織しにくくするため、西ベンガル、ウッタル・プラデーシュ、アッサム、メガラヤ、アルナーチャル・プラデーシュ、トリプラといった州の一部でインターネットサービスを停止させた。ジャム・カシミール州では自治権が剥奪された8月4日以降、インターネットサービスはほぼ途絶えたままだ。

市民権改正法に対する抗議デモは国内のみならず国際的にも注目を集めているが、BJPの支持者は満足だろう。結局のところ、モディは予想外のことはまったくしていない。圧勝した2期目の選挙中の公約を果たしているだけだ。

モディはやりすぎているのではないか。その問いに対する答えによっては、インドが独立の際にめざした平和な非宗教国家でありつづけるか、それともイスラム教を国教とする隣国パキスタンのような宗教的排他主義の国になるのか、インドの将来が決まりそうだ。

(翻訳:栗原紀子)

From Foreign Policy Magazine

20191224issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月24日号(12月17日発売)は「首脳の成績表」特集。「ガキ大将」トランプは落第? 安倍外交の得点は? プーチン、文在寅、ボリス・ジョンソン、習近平は?――世界の首脳を査定し、その能力と資質から国際情勢を読み解く特集です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は3日ぶり反発、エヌビディア決算無難通過で

ワールド

米天然ガス生産、24年は微減へ 25年は増加見通し

ワールド

ロシアが北朝鮮に対空ミサイル提供、韓国政府高官が指

ビジネス

午後3時のドルは154円後半、欧州PMIでユーロ一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中