最新記事

メディア

なぜ私たちは未来予想が好きなのか?

2019年12月12日(木)14時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

2019年の予測:家族・ジェンダーから日本語のローマ字化まで

それからちょうど100年後の今、2019年12月、論壇誌『アステイオン』が「百年後の日本」へのオマージュともいえる企画「可能性としての未来――100年後の日本」を特集した。

やはり今の話題や世相が反映されている。家族やジェンダー(池上裕子による寄稿「ミソジニーを超えた文化へ」、トイアンナによる「ぜいたくは敵だから、結婚しません」)、情報化の未来(池内恵「一〇〇年後に記された『長い二一世紀』の歴史」、小川さやか「世界が存在する偶然を」)、地方都市(江頭進「存続意義を失う地方都市」、砂原庸介「悠久の都道府県?」)、働き方(玄田有史「希望、だって(笑)。」)などを、テーマとして何人もが挙げている。

そして100年前の「百年後の日本」と同じく、日本語のローマ字化について言及されたものもある(佐藤卓己「日本語表記がローマ字になっている」)。

また、「百年後の日本」同様に、「100年後とは長い」「わからない」「そういうことは古い」と指摘しているものもあり、例を挙げれば、高階秀爾「百年後とは長過ぎる」、中西輝政「三〇年後くらいならともかく」、北岡伸一「西太平洋連邦を目指して」、渡辺靖「それでも私たちは愚直に未来を予測し続ける」などがある。

確かに100年後を予測するのは長過ぎて難しいが、予測するだけの価値はあるだろう。飛行機で富士山を登るようにはならなかったし、北極と南極を日帰り旅行できるようにもならなかった。また、首都が東京から移ることもなかった。しかし、飛行機は太平洋横断できるようになり、女性が政治家や学者になることはできるようになり、うなぎの蒲焼も残り続けた。

asteion191212-100yrs-2.jpg

1966年『予言する日本人――明治人のえがいた日本の未来』(竹内書店)の表紙と、2019年12月の論壇誌『アステイオン』「可能性としての未来――100年後の日本」特集号の表紙

「百年後の日本」は、46年後の1966年に『予言する日本人――明治人のえがいた日本の未来』(竹内書店)として復刻されている。そのときの「編集後記」に次のように書かれている。


 未来社会を考察する意義は、人間の欲望を最大限に解放し(常識的予想)、これを建設的な人間的目的に誘導する道を探求する(科学的予想)ところにある。未来社会を語ることは、現在における自らの選択に責任をとることである。

今その時代を生きてきた私たちも、直近十数年に起こったリーマンショック、東日本大震災の発生、また天皇陛下の生前退位から令和の時代のスタートを予想することはできなかった。先人たちが100年後に何を託し、私たちは何を引き継げているか。

私たちが100年後を予想することは、いい社会や未来をつくるために、いま自分がどのように生きるかを謙虚に考えるいい機会となる。未来を予想することは今の技術では当面不可能だが、100年後はもしかしたら可能になっているかもしれない。そのときは確実に未来予測は廃れているだろうが、それができなくなるのは、それはそれで寂しい時代かもしれない。

■お知らせ■
『アステイオン91』刊行記念イベント

田所昌幸(慶應義塾大学法学部教授・『アステイオン』編集委員長)+江頭進(小樽商科大学商学部教授)

政治・経済・社会を覆う〈短期志向〉、〈近視眼的思考〉をいかに乗り越えるか?「100年」という時間を通して眺めることで、過去・現在・未来を再定位し、いま社会科学にできることを語りつくす!

日時:2019年12月19日(木)19:00~20:30 (開場18:30)
場所:八重洲ブックセンター本店 8階ギャラリー
詳しくはこちら


アステイオン91
 特集「可能性としての未来――100年後の日本」
 公益財団法人サントリー文化財団
 アステイオン編集委員会 編
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中