最新記事

ウクライナ疑惑

トランプ弾劾の争点「権力乱用」「議会妨害」は妥当か

2019年12月11日(水)15時56分

米下院民主党はトランプ大統領のウクライナ疑惑を巡る弾劾訴追状案を公表し、「権力乱用」と「議会妨害」の2つの条項を弾劾訴追の根拠とする方針を示した。写真は米議会。12月10日、ワシントンで撮影(2019年 ロイター/Yuri Gripas)

米下院民主党は10日、トランプ大統領のウクライナ疑惑を巡る弾劾訴追状案を公表し、「権力乱用」と「議会妨害」の2つの条項を弾劾訴追の根拠とする方針を示した。歴史的な背景からこの2つの条項の定義を探った。

権力乱用

弾劾手続きにおいて「権力乱用」は一般的に、大統領が個人的な利益のために大統領の巨大な権限を利用することと定義される。合衆国憲法は大統領を弾劾する理由として「反逆罪、収賄罪または重罪や軽罪」を挙げており、「権力乱用」に具体的には触れていない。しかし法律専門家は、合衆国の建国に携わった人々は「重罪や軽罪」という文言に幅広い意味で権力乱用を含ませるつもりだったと指摘している。

「建国の父」の1人であるアレクサンダー・ハミルトンは、1788年に弾劾手続きの理由について、「公人の不品行、つまり大衆の信頼を乱用したり傷つけること」と記した。

ジョージタウン大法学部のルイス・マイケル・セイドマン教授は、トランプ氏に対する批判の中核部分、つまり同氏が自分の政治的な利益となる調査の公表をウクライナに対する軍事支援の条件にしたという部分は、建国の父が弾劾手続きの理由に当たると考えていた行為にほぼ相当すると述べた。

セイドマン氏は「米国はウクライナに国家安全保障上の利害を有しており、大統領の行為は政治的利益と引き換えに国家安全保障上の利益を危険にさらしたように見受けられる」と指摘。「こうした事態が起きたのであれば弾劾の核心そのものだ」とした。

「権力乱用」はリチャード・ニクソン元大統領に対する弾劾手続きでも訴追理由の1つとなった。ニクソン氏は下院本会議で弾劾決議案の採決が行われる前に辞任した。下院委員会はニクソン氏に権力乱用があったと認め、ニクソン氏が「政敵リスト」掲載者に対する税務調査を許可したと批判した。

ホワイトハウスの実習生と関係を持ったとして弾劾訴追に追い込まれたビル・クリントン元大統領のケースでは当初、権力乱用が弾劾の理由となっていたが、下院でこの条項を訴追理由に含むとの提案が否決された。クリントン氏は最終的に「偽証」と「司法妨害」の2条項を理由に弾劾訴追されたが、上院本会議が無罪と認定した。

議会妨害

民主党はトランプ氏が下院の弾劾調査に対して協力しなかったとして、「議会妨害」を弾劾の理由としている。ホワイトハウスは議会調査への書類提出を拒み、政策顧問トップや政府当局者に召喚状を無視し証言を拒否するよう指示した。

ニクソン氏は有罪の証拠となる音声記録の提出を求める召喚状に従わず、「議会妨害」と類似する「議会侮辱」が弾劾の理由となった。米国の法律によると、議会での証言や書類提出を意図的に行わない議会侮辱は軽罪に当たる。一方、「司法妨害」は「法と正義による秩序ある統治への介入」をより幅広く禁じており、犯罪としては別の定義となる。

ホワイトハウスは、合衆国憲法は大統領の上級顧問に議会証言を強制していないと主張している。米連邦地裁は11月25日、マクガーン元ホワイトハウス法律顧問への召喚状を巡る論争で、この見解を却下した。

トランプ氏の弁護士も、同氏自身の弾劾調査への協力拒否について、手続きが同氏にとって公正さを欠いているため拒否は正当だと訴えている。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20191217issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月17日号(12月10日発売)は「進撃のYahoo!」特集。ニュース産業の破壊者か救世主か――。メディアから記事を集めて配信し、無料のニュース帝国をつくり上げた「巨人」Yahoo!の功罪を問う。[PLUS]米メディア業界で今起きていること。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相、人質遺体返還巡りハマス非難 「代償

ワールド

韓国、38年までに脱炭素電源7割目標 大型原子炉2

ビジネス

英小売売上高、1月は前月比+1.7% 予想を大幅に

ビジネス

テスラによる日産投資計画、菅元首相らグループが立案
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    ハマス奇襲以来でイスラエルの最も悲痛な日── 拉致さ…
  • 10
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中