最新記事

韓国

日米から孤立する文在寅に中国が突き付ける「脅迫状」

2019年12月4日(水)17時00分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

THAAD配備をめぐって韓国は中国から手痛い報復を受けた(写真は先月25日、プサンのASEAN韓国サミットに出席した文在寅大統領) Yonhap/REUTERS

<新たな中距離ミサイルの開発と配備に前のめりになるアメリカに対して、ミサイル網によって包囲されかねない中国の危機感は強い>

韓国紙・朝鮮日報によれば、ソウルに駐在する邱国洪・中国大使は先月28日に行われたフォーラムで、「米国が韓国本土に中国向けの戦略兵器を配備した場合、いかなる悪い結果がもたらされるか、皆さんも想像できるはずだ」と発言したという。

韓国の識者らが恐れる本物の「国難」が、いよいよ幕を上げつつある。

米韓同盟は動揺

同紙はこの発言について、「韓国が米国の中距離ミサイル配備に応じた場合、『高高度防衛ミサイル(THAAD)』問題以上の報復を受ける可能性が高いので注意せよ」という意味の警告と受け取られている――と伝えた。

韓国が2016年に米国の迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の在韓米軍配備を公表すると、中国政府は様々な経済制裁でこれに応じた。

THAADの韓国配備は北朝鮮の脅威を理由としたものだったが、同システムのレーダーは最大探知範囲が1000キロに及ぶことから、中国は自国内の弾道ミサイルが無力化されることを懸念したのだ。中国の経済制裁により韓国が被ったダメージに比べれば、日本による輸出規制措置など生易しく感じられるほどだ。

そして、ロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約の消滅を受けて、米国が新たな中距離ミサイルの開発と配備に前のめりになっているのは周知のとおりだ。その標的は中国とロシアであり、配備候補地には日本と韓国も入っていると考えるべきだ。

<参考記事:韓国は「自滅の道を歩むだろう」...北朝鮮がシビアに予言

中距離ミサイルには目標への到達時間の短い弾道ミサイルと、命中精度の高い巡航ミサイルがあり、運用の仕方は様々だ。いずれにせよ、米国製の多種多様なミサイルで包囲されかねない中国の危機感は強い。

そして今日(4日)からは、中国の王毅外相が2016年のTHAAD問題勃発以来、初めて訪韓する。これについて朝鮮日報は3日、「中国外相、あす『警告状』持参で来韓」と題した記事で、韓国政府周辺に漂う緊張感を伝えた。

そうでなくとも文在寅政権は、歴史問題で日本と険悪な関係にある上、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄するか否かで米国との間でも葛藤を抱えた。GSOMIAの破棄はいったん、見送られたとはいえ、米韓同盟の動揺は完全には収まっておらず、韓国の孤立感は強い。この状況下で王毅氏が携えてくるメッセージは、「警告状」というよりも「脅迫状」に近いインパクトがあるのではないだろうか。

<参考記事:日米の「韓国パッシング」は予想どおりの展開

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏

ビジネス

金、3100ドルの大台突破 四半期上昇幅は86年以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中