最新記事

韓国

「アメリカは韓国の味方をしない」日韓対立で米高官が圧迫

2019年11月5日(火)16時20分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

バンコクで開催中のASEAN関連首脳会議の会場で安倍首相(中央左)と話し込む文在寅大統領(中央右)(11月4日) The Presidential Blue House/Yonhap/REUTERS

<そもそもアメリカが日韓GSOMIAの継続を望んでいることは、当初から分かっていたことだった>

今後の対米・対日関係の成り行きに、韓国が緊張している。

保守系全国紙の東亜日報、朝鮮日報、中央日報は揃って、日本経済新聞(2日付)が掲載したマーク・ナッパー米国務省副次官補(韓国・日本担当)のインタビューと、読売新聞(同)のジョセフ・ヤング駐日米国臨時代理大使のインタビューに言及した。

両氏のインタビューはともに、韓国政府が日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の終了(破棄)を宣言したことについて、撤回を求める内容だ。GSOMIAは今月22日いっぱいで期限切れとなる。

特に朝鮮日報は、「GSOMIA問題を直接扱う米政府の中心的官僚2人が別の日本の新聞とのインタビューで『GSOMIA維持』を強調したのは、『米国は韓国の味方をしない』というメッセージと解釈できる」とまで分析している。

そもそも、米国が日韓のGSOMIAが維持されるのを熱望していたことは、当初からわかっていたことだった。それを振り切って韓国の文在寅政権がGSOMIA破棄を宣言したのは、GSOMIAを人質に取り、歴史問題への報復として発動した輸出規制措置を日本が撤回するよう、米国に説得させようと思ったからだ。

しかし、それが裏目に出たことは早々に判明した。米国が異例に強い表現で、繰り返し韓国に抗議したのだ。もはや文在寅政権としては、早めにGSOMIA破棄を撤回する口実を見つけ、米国との対立を終わらせるのが得策と言える。

ところがだ。東亜日報によると、青瓦台(韓国大統領府)は「日本が韓日対立の解決に消極的な態度であるため、輸出規制強化の解決がないGSOMIA延長は『絶対不可』の方針を固めている」という。日本と韓国のどちらが正しいかを棚に上げて論じたとしても、これほどの愚策はない。

参考記事:「何故あんなことを言うのか」文在寅発言に米高官が不快感

なぜなら日本としては、韓国がGSOMIA破棄に固執してくれるほど、米国を自分の側に引き寄せることができるからだ。

結局、文在寅政権がGSOMIA破棄を撤回できないのは、国内の支持者に対して説明がつかないからであり、つまりは与党の再選を優先する党利党略なのだ。国民の利益も日米との安保協調も二の次、三の次だ。予定通りGSOMIAが破棄され、それが浮き彫りになった場合、米国が韓国に対してどのような圧力を行使するかは、過去の猛烈な非難を振り返ればおのずと想像がつく。

参考記事:「韓国外交はひどい」「黙っていられない」米国から批判続く

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中