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安全保障

クルド人の悲劇からアメリカの同盟国が学ぶべき教訓

Kobani Today, Krakow Tomorrow

2019年10月17日(木)19時25分
ガーバン・ウォルシュ

ポーランドは国内に「トランプ要塞」の仮称で呼ばれる新たな米軍基地を招き、厳しい財政事情にもかかわらず巨額の費用負担を申し出ている。基地には米兵3500人が駐留する計画だ。いずれポーランド情勢が厳しくなったら、トランプは撤退されたくなければもっとカネを出せと、言い出さないだろうか。

米軍のシリア撤収は、冷戦終結後30年間も欧州諸国が「安保タダ乗り」をしてきたことの罰だとタブロイド紙の格好のネタになっている。米ソ冷戦が終結して、アメリカは欧州を守る戦略的な必要性を失った。EUは経済的には超大国だ。天下のGAFAに厳しい規制を課すことができるのはその証拠だ。しかし軍事的には超大国から程遠い。

富は、財産権や自由貿易、市場経済システムを支持する国際秩序があって初めて意味をなす。言い換えれば、どんなに価値ある黄金も、銃を突き付けられ奪われてしまえばおしまいだ。

欧州独自の軍事力を

EUが経済超大国なのも、加盟国が団結して動くことがトクになる仕組みがあるからだ。政策を決めるのは、加盟各国ではなく統一行政機関の欧州委員会だ。加盟各国には利害に関わる決定権がないので買収される心配はない。EU全体となれば、それこそ大き過ぎて買収は無理だ。

同様の仕組みを、欧州の防衛にも組み込むべきだ。手遅れにならないうちに。トランプがクルド人を見捨てたことを、教訓にしなければならない。

共通の安全保障政策、共通の軍隊、共通の戦闘ドクトリンがなければ、欧州大陸の東側の守りはいたく脆弱なまま放置されることになってしまう。バルト3国やポーランドは、常にロシアの脅威にさらされているのだ。

EUは、イギリスの離脱後でも5億の人口と15兆ドルのGDPをもつ。そのうえ完全に統合された防衛戦略をもれば、国際的な危機に際して慌てるだけの存在ではなく、主導権を握れるようになる。

米軍がシリアから撤収すればそれに代わる部隊を送り、その軍事力を背景に和平交渉を仲介できるEUになるだろう。その力を持たない欧州は、羽をむしり取られるのを待つだけの太ったガチョウに過ぎない。

From Foreign Policy Magazine

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