知っておきたい公的年金の将来見通し──保険料の引上げ停止がもたらす未来
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誰かの負担増なくして給付水準の改善はできない Hana-Photo/iStock.
<将来年金を受け取る日本人にとって死活的に重要な「マクロ経済スライド」と、年金の厳しい明日がよくわかる>
公的年金の財政検証(将来見通し)が5年ぶりに公表された。本稿では、今回の見通しのポイントを確認する。
重要な前提:保険料の引上げ停止
公的年金の将来見通しでは、給付水準の見通しが示される。これまでもそして今回も、将来の給付水準が低下する見通しになっている。このように給付水準が低下するのは、2017年に公的年金の保険料(率)の引上げが停止されたためである。
保険料(率)の引上げ停止は、2004年改正で決まった。当時の試算では、当時の給付水準を維持するには厚生年金の保険料率を将来的に労使合計で25.9%まで引き上げる必要がある、という結果であった[図表1]。しかし、労使ともに保険料の引上げに反対したため、保険料率の引上げを18.3%で停止し、その代わりに将来の給付水準を段階的に引き下げて、年金財政のバランスを取ることになった。これが「マクロ経済スライド」と呼ばれる仕組みである。
給付水準の引下げは年金財政が健全化するまで続くが、いつ年金財政が健全化するかは、今後の人口や経済の見通しによって変わる。そこで、国勢調査が5年ごとに行われることを踏まえて、政府は少なくとも5年ごとに年金財政の見通しを作成する(財政検証を行う)ことになっている。
注目点1:給付水準の低下率
前述のとおり、現在の制度では将来の給付水準を段階的に引き下げて年金財政のバランスを取る。そのため、給付水準がどの程度で下げ止まるかが、将来見通しの第1の注目点である。
ただ、給付水準は、法律で定められたモデル世帯の所得代替率で示されるため、値自体の解釈が難しい。そこで注目すべきなのは、所得代替率が足下と比べて何割低下しているか(割り算で求めた低下率)である。
今回(2019年)の財政検証では、足下(2019年度)の所得代替率が61.7%だったのに対し、今後の人口や経済状況によって、最終的に53.8~31.1%へと低下する見通しが示された[図表2左]*。これは、足下の水準と比べて、給付水準が1~5割程度低下することを意味する[図表2右]。
もう一歩踏み込んで見ると、給付水準の低下は厚生年金(2階部分)よりも基礎年金(1階部分)で大きくなっている[図表3]。これは、年金に占める基礎年金の割合が大きい人、すなわち会社員OBの中でも現役時代の給与が少ない人ほど、年金全体の水準低下が大きいことを意味する[図表4]。
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* 死亡率が中位の場合。死亡率が低位や高位の場合は、出生率が低位や高位の場合より影響が小さいため割愛。