最新記事

嫌韓の心理学

日本に巣食う「嫌韓」の正体

THE MEDIA'S FAULT?

2019年10月10日(木)17時30分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

筆者が閲覧した時点で2万を超えるコメントが付いていた韓国・中央日報日本版のニュース(中央日報電子版が2019年8月5日に配信した「文在寅(ムン・ジェイン)大統領『南北平和経済の実現時は一気に日本経済に追いつく』」)を見てみよう。

「世界の問題児と手を繋ぐなんて孤立への第一歩です......来年のオリンピック(注:東京五輪)の共同ボイコットを実施してくれれば、間違いなく世界へのアピールになります」「日本に近寄らないよう距離を置いてください。韓国人にはビザの復活が必要です。短期のみでお願いします」といったコメントが上位に並んでいる。

インターネット世論を研究する立教大学教授の木村忠正(ネットワーク社会論)が2016年7月と8月に16~70歳の男女1100人を対象に行ったウェブアンケート調査(詳細は『ハイブリッド・エスノグラフィー』〔新曜社、2018年〕)によると、ヤフーニュースの利用率は木村が調査した全年代平均で72.5%、特に30代後半から40代(木村の分類では36〜50歳)の利用率は78.2%と高くなっている。

さらに注目すべきはコメント欄の閲覧率と書き込み率の高さだ。ヤフーニュースに付いているコメントまで閲覧しているのは、利用者全体の平均57.5%に達する。データは、多くの人々がコメント欄まで読んでいることを示唆している。書き込んでいるのは、全体の約15%に当たる。

そこでは、ポストでも問題になった「断韓」という言葉はとっくにメジャーなものになっており、もっと過激な言葉が日常的に飛び交っている。木村は書き込み全体の強い動機には①韓国、中国に対する憤り、②少数派が優遇されることへの憤り、③反マスコミといった感情があると指摘する。

憤りは自分たちよりも配慮され、「優遇」されている「彼ら」へと向かう。ニュースは記事単体で完結せず、コメント欄の反応までがワンセットになる。これが現代のニュースだ。

「嫌韓」言説は最もページビュー数の多いニュースサイトであるヤフーで日常的に目にすることができる。「一部の過激な右派」の言葉ならコメント欄の下位に沈んでもおかしくないが、これらの言葉に「そう思う」と支持を表明する人々が多いからこそコメント上位に表示される。

推測するに、コメント欄に書き込んでいる人も「そう思う」をクリックする人も、全員が本気で「断韓」ができると思っているわけではないだろう。ネットへの書き込みと、実際に政治的行動に移すことには大きな開きがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中