最新記事

サバイバル日本戦略

「仮面の笑顔」中国・習近平の本音

THE IRON MAN

2019年10月4日(金)14時30分
阿南友亮(東北大学法学研究科教授)

習近平は国家主席の任期を撤廃し、権力を自分に集中させている(2017年) LI TAO-XINHUA/AFLO

<日中の間にぎこちない友好ムードが漂うなか関係改善に向かうと考えるのが早計なこれだけの理由>

日本と中国の間には、昨年あたりから「ぎこちない友好ムード」が漂い始めている。習近平(シー・チンピン)国家主席が安倍晋三首相と握手する際に、顔のこわばりを以前より若干緩めるようになったのはなぜか。

激しい米中対立が一因となっていることは否めない。中国はアメリカとの関係が悪くなると、日本に接近してアメリカを牽制するという外交戦術をこれまでしばしば採用してきた。

日中間で長年にわたり機能不全に陥っていた対話メカニズムの修復は、不測の事態への対応という観点からポジティブに評価できる。しかし、それを根拠に日中関係が今後安定に向かうと断じるのは、あまりに早計だ。

戦後の日中関係は、中国が1978年に改革開放路線を導入したことをきっかけに大きく発展した。貿易額を見れば、1978年以降の約40年で実に60倍に膨れ上がった。1970年代以降の米中関係にとっても、改革開放は接着剤の役割を果たしてきたと言えよう。

現在の米中対立は、華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)に代表される「先端技術の覇権をめぐる争い」という側面が注目されているが、対立の根本的な原因は、習近平政権の下で改革開放が大きく揺らいでいることに見いだすことができる。

改革開放路線は、もともと日米欧との協調を大前提とし、計画経済から市場経済への転換を図りつつ対外貿易によって経済を発展させ、共産党に対する民衆の支持を再建することを目標としていた。1976年の文化大革命終了と毛沢東死去まで続いた毛の個人独裁は、中国社会に凄惨な破壊と混乱をもたらし、共産党の権威を著しく傷つけた。毛が招いた中国国内の政治・社会不安を克服するために、共産党は1978年に改革開放を打ち出したのである。

アメリカを中心とする国際政治・経済秩序に適応するために中国の政治・経済体制の大改造を敢行するというその試みは、長期に及ぶ経済発展という収穫を得た。しかし、その裏では、改革の方向性や度合いをめぐる陰湿な権力闘争が続いてきた。その争点は、共産党が中国の主要産業・企業・資源・土地・インフラ・労働力を支配している体制にどこまでメスを入れるかにあった。

裏切られた日米欧の楽観論

このような舞台裏での抗争の結果、改革開放は2つの構造的問題を内包するようになった。1つは、共産党と企業を切り離し、共産党幹部によるビジネスを制限するという改革派の取り組みが頓挫したために、党幹部とその一族や取り巻きを中心とする特権集団が経済発展の果実を優先的に囲い込むようになったという問題である。これにより、社会主義の看板を掲げる中国において、極端なまでの貧富の格差が固定化し、特権富裕層に対するフラストレーションが蓄積され、不安定な世相が一向に克服されないまま日常風景として定着してしまった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 9
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中