欧州の危機はイギリスからドイツへ広がる
EUROPE’S NEVERENDING CRISIS
しかし、2015年の難民危機以後、彼女は統合の象徴としての機能を失った。難民の受け入れに反対する右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進し、今やほとんどの選挙で第2党の地位につけてくる。長年2大政党の一翼を担ってきた社会民主党(SPD)は、存続の危機に立たされている。従来からの政治勢力で連立政府を組もうとしても、もはや2党では多数が形成できず、3党以上にならざるを得ない。取り沙汰されている政権連立は、ほとんど挙国一致政権の感すらある。近い将来「ドイツのための選択肢」が第1党になる可能性も十分ある。
「取り残された人々」の造反
フランスでもイタリアでも、従来の政党が凋落しポピュリスト政党が躍進している。どの国でも、この約30年間の成長から取り残され、疎外されたと感じている人々が造反している。ヨーロッパで最も豊かな英独においてすらこうであり、もっと小さな国ではその割合ははるかに高い。戦後ヨーロッパの繁栄を支えてきたエリートたちは、明らかにこの声に気付くのが遅過ぎた。この混乱はしばらく続くだろう。
既存の制度が新たな声を取り込んで「多数」の再構築に成功するか、それとも制度が破壊されて混乱の後に新たな制度へと至るのか。いずれにせよ、苦痛に満ちた長い移行期がヨーロッパを待ち受けている。
(筆者の専門は国際政治、ヨーロッパの安全保障)
<本誌2019年10月1日号:特集「2020サバイバル日本戦略」より>
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