最新記事

温暖化

気候変動でトイレが流せなくなる!

Climate Change May Take Away Your Ability to Flush the Toilet

2019年10月1日(火)16時50分
K・ソア・ジェンセン

地下水の水位が上がると、排水の行き場がなくなってしまう Garrett Aitken/iStock.

<海面上昇による沈没は免れても、アメリカでは6000万台のトイレが使えなくなる。水は地下から攻めてくる>

国連の新たな報告書は、海面上昇の影響で今後、アメリカだけでも6000万台ものトイレが使えなくなる可能性があると指摘している。浄化槽方式のトイレの場合、地下水の水位が上昇するとうまく機能しなくなるため。

米環境保護局(EPA)によれば、アメリカの5世帯に1世帯は浄化槽を使ってトイレ排水の処理を行っている。このシステムの場合、トイレから流された汚水は一時的に地下のタンク(浄化槽)に貯め置かれる。ここでバクテリアが汚水を水と固形物に分解し、水は排水用地(地下)に放流される。

だが海面の上昇にともなって地下水の水位も上昇し始めており、飽和状態になった排水用地が浄化槽から放流された排水を吸収しきれなくなりつつある。それに加えて、土壌の浸食で汚染物質をろ過するのに必要な柔らかい土が流され、地下水の汚染も進んでいる。

海抜が低く海面上昇の影響を受けやすい

フロリダ州マイアミ・デイド郡政委員会のレベッカ・ソーサ副委員長は、気候変動が自分の選挙区の浄化槽システムに及ぼす影響について外部機関に報告書を作成させた。

「海面上昇は全ての人に影響を及ぼすことになる問題だ」と彼女はKTLAテレビに語った。

報告書によれば、浄化槽の64%は今後25年以内に壊れる可能性があり、使い続けるためには毎年修理を行う必要がある。

ソーサは9月に入ってから、マイアミ・デイド郡の汚水処理システムを浄化槽方式から下水道方式に切り替えるための2つの法案を提出した。下水道方式は、各世帯から出た排水を下水道管で集め、浄水場で浄化するシステムだ。このシステム以外の選択肢としては、排水用地を使わずに、ポンプを使って排水を高所に設置した水槽に貯めるシステムなどがある。

アメリカの浄化槽システムの15%がフロリダ州にあり、土地の海抜が低いため特に海面上昇の影響を受けやすい。

さらに多くの地域では地盤が多孔質の石灰岩でできているため、海水が内陸部に到達しやすく、大西洋の海面上昇にともなって地下水の水位が上昇する。防波堤のような従来型の方法では、地下水の水位上昇を阻止するのに役に立たない。

フロリダ周辺の海水位は1950年以降で約20cmも上昇しており、今後も3年で約2.5cmのペースで上昇を続けると予想されている。米陸軍工兵司令部は、2050年までに今より約38cm上昇すると予想している。

(翻訳:森美歩)

<参考記事>肉食を減らそう......地球温暖化を抑えるために私たちができること
<参考記事> 「環境ポピュリスト」小泉進次郎は、楽しくもセクシーでもない温暖化対策の現実を語れ

20191008issue_cover200.jpg
※10月8日号(10月1日発売)は、「消費増税からマネーを守る 経済超入門」特集。消費税率アップで経済は悪化する? 年金減額で未来の暮らしはどうなる? 賃貸、分譲、戸建て......住宅に正解はある? 投資はそもそも万人がすべきもの? キャッシュレスはどう利用するのが正しい? 増税の今だからこそ知っておきたい経済知識を得られる特集です。


202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中